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下着どろぼう

ひとり暮らしの頃、住んでいたアパートの部屋に下着どろぼうが入った。
年末年始、長く留守にしてた時を狙われた。
私は一階に住んでいたし、無防備だった。
夜遅く帰宅すると、いつもと違う空気を感じた。
電気をつけてみて、それがなんなのかはっきりした。

窓が割られて鍵が壊されている。
ベッドに靴の足跡が付いている。
部屋に干していた下着が根こそぎ無くなっている・・・

生まれて初めて、110番をした。
来てくれたのは、年配の警察官と若い警察官の二人組。
私の狭いワンルームの部屋に座りこんで、事情を聴いてくれる。
ベッドの上の足跡や割れた窓ガラスを見て心細くなっていた私は、
この人たちはぜったいに味方なんだって思ったら、なんていうか、すごく安心した。
警察の人が言うには、同じ手口の下着どろぼうがこの沿線で最近多発しているらしい。
普段から、女性の一人暮らしだと目をつけられているんだとか。
ちょっと怖くなった。

そして、盗まれた物を一点一点説明するように言われる。
年配の警察官は、ごめんね、聞かないといけないんだ、と申し訳なさそう。
興味本位とかではないのだと分かっていても、
ひとつひとつ、色とかデザインとか買った時の値段とか何回位着用したとか、そういうのを詳しく話して、それを若い方の警察官が真面目に書き留めているのをみると、どうしても笑いそうになってしまう。

えーと、ブラジャーは薄いグリーンでふちにレースがついてて、買ったときは3980円、いやショーツとセットで4980円だったかな、あ、消費税入れます? えと、買ったのは確か3か月位前だから10回以上は着用してます。
・・・・・・ほんとにこんな情報必要なのか?
でも警察の人は、ふむふむと真顔で聞いてくれている。
時々、『それも上下セットなの?』とかどうでも良いと思える質問を交えながら。

私が記憶を辿ってぜんぶ報告し終えると、警察の人たちは帰って行った。
そして、その割られた窓の部屋で私はひとり寝るのだ。
そこまでは警察の人も面倒を見てくれない。
下着どろぼうが戻って来たらどうしよう・・とかそういう不安もあったけど、それよりも明日は朝から仕事なのに窓ガラスをこのままで出かけても大丈夫なのかな?・・いやダメだよね。
それで、翌日は仕事をお休みして窓ガラス屋さんに来てもらった後、新しい下着を買いに行った。
たぶん盗まれた下着は返ってこないから。
それに返ってきたとしても、それをもう一度着用するのはなんだか勇気がいる。

下着どろぼうの人は今ごろ、
私や他の人たちの大量の下着に囲まれてどうしてるんだろう・・と純粋に気になった。

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