見出し画像

新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(9)

就任記者会見の「異変」

 従前、横浜市長の記者会見でフリーランスは傍聴できるものの、質問できなかった。

 しかし、横浜市長選挙の期間中(2021年8月8日、告示。8月22日、投開票)のはたらきかけが功を奏し、前横浜市立大学教授で初当選した山中竹春新市長の就任記者会見からフリーランスも質問できることになった。本連載の読者ならば、先刻、ご承知であろう。

 山中新市長(以下、山中市長)の就任記者会見は8月30日に横浜市役所で開かれた。会場には横浜市政記者会(記者クラブ)の加盟社(新聞社、テレビ局、通信社など)以外の週刊誌やネットメディアの記者、フリーランスも駆けつけた。

会見場

 山中市長が会場に入り、記者会見が始まった。最初に山中市長が就任の挨拶をしたのだが、緊張からか、だいぶ声が上ずっているように感じられた。

 続いて、横浜市政記者会幹事社の共同通信の記者から初登庁の感想などに関する質問。山中市長は「はい。ありがとうございます」と礼を述べてから回答するようにしており、記者会見の受け答えを練習してきたさまがうかがえた。

 その後、会場から挙手による質問に移った。横浜市政記者会の記者のみならず、週刊誌やネットメディアの記者、フリーランスも手を挙げた。

 司会の横浜市女性職員が「毎日新聞」と指名した。毎日新聞の記者は、林文子前市長が推進していたIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致の撤回(山中市長の公約の1つ)と副市長人事について質問した。山中市長は、前者について「速やかに(行う)」、後者について「副市長の方々とお話し合いをさせていただきたい」と答えた。

 質疑応答が終わると、会場から大勢が手を挙げた。女性職員は「NHK、お願いします」と指名した。

 NHKの記者と山中市長との質疑応答が終わり、また大勢が挙手。女性職員は「読売新聞」とひとこと。ここで、私は「おかしい」と思い、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社)の著者で、会場に来ていたフリーランスの畠山理仁氏のほうを見ると、彼も「これは、もしかして」というような顔をしていた。

 以後、女性職員は淡々と「神奈川新聞」「日経新聞」「時事通信」「朝日新聞」「共同通信」と社名のみで指名していった。つまり、いくら大勢が挙手しようとも、あらかじめ横浜市政記者会の記者を順番で指名することが決まっているのだ。

 早い遅いはあっても、ほとんどの週刊誌やネットメディアの記者、フリーランスが「異変」に気づいたはずである。しかし、それでも、彼ら彼女らは手を挙げ続けた。

横浜市政記者会の記者が質問しないこと

 記者会見開始から22分後、女性職員が「それでは、どうぞ」と初めて社名を口にせずに質問者を指名した。ネットメディア『日仏共同テレビ局フランス10』の及川健二氏だった。

 及川氏は以下の3点について、山中市長の見解をただした。

(1)2020年まで使用されていた旧市庁舎が、「たたき売り」との批判もある約7700万円で三井不動産らへ売却される問題。

(2)「冷たい」などの批判がある市立中学校のデリバリー給食「ハマ弁」の問題。

(3)2027年の花博(国際園芸博覧会)を米軍上瀬谷通信施設跡地に誘致しようとしている問題。

(1)と(3)は横浜市政記者会の記者からは質問が出ておらず、(2)は朝日新聞の記者のみが質問していた。

 山中市長は、(1)について「事実関係の把握に努めたい」、(2)について「しかるべき対策をとっていく」、(3)について「よりよい案を速やかに検討を開始する」と答えた。

 女性職員が「後ろのグレーのジャケットの方」と指名すると、畠山氏が「私ですか」と声をあげた。以下、質疑応答(敬称略)。

畠山 フリーランスの畠山と申します。いくつかおうかがいしたいんですけれども、まず、選挙公報とか、ビラにですね、「コロナの専門家」という記載をされていたかと思うんですけれども、山中さんご自身は「コロナの専門家」ということでよろしいのでしょうか。

山中 はい。ありがとうございます。データサイエンスの手法を用いて、コロナ領域で貢献してまいりました。はい。

畠山 その点で補足なんですけれども、あの、中和抗体(ウイルスの感染を防ぐはたらきをするもの)に関する研究以外に、新型コロナに関する研究にかかわったことがあれば、教えていただければと思います。

山中 はい。ありがとうございます。治療効果、お薬の治療効果、コロナに感染した方に、様々な治療がございますけれども、その治療のことに関する検討や、あるいは抗原検査(ウイルスの感染の有無を調べる検査)の検査性能の検討とか、まあ、そういったことを行ってまいりました。

畠山 なるほど、わかりました。もう1点。あの、市長選にいちど出馬をされると表明をされて、そのあと、とりやめた弁護士の郷原さん、郷原信郎さんなんですけれども、山中さんご自身も『選挙ドットコム』というサイトでブログを開設されてると思いますが、その郷原さんが『選挙ドットコム』のブログで、山中さんの経歴の問題、それからパワハラの疑惑、それから強要未遂の問題などを取り上げてですね、あの山中さんご自身が市長としてふさわしくないのではないかという疑義を呈されておりますけれども、これに対して、選挙戦を通じて、山中さんのほうから反論がまったくなかったんですけれども、これはなぜなのかということを教えていただければと思います。

山中 はい。ありがとうございます。選挙に出るということについては、本当にいろいろなことを書かれるんだなというふうに正直なところ思いました。あの、まあ、市民の方にですね、しっかりと自分の取り組みを理解してもらう。その努力が最も重要なのではないかと思っております。はい。

畠山 追加で、ごめんなさい。郷原さんがインターネットで山中さんのものとされる音声を公開されておりますけれども、山中さんご自身はこれをお聞きになりましたでしょうか。

山中 あのー、存在は、あのー、あの、聞いているんですが、内容に関しては、あのー、全部はちょっと、途中まで聞いたんですけれども、全部は、あのー、まだ聞いてません。はい。

畠山 音声の声は山中さんご自身のものということでよろしいんですか。

山中 はい。そうです、そうです。はい。

 山中市長の経歴詐称、横浜市立大学関係者に対するパワハラや強要の疑惑は市長選挙の直前から週刊誌やネットメディアなどで報道されてきた。にもかかわらず、横浜市政記者会の記者は一切質問せず、畠山氏が初めて質問したのだった。

画像2

女性職員が一方的に記者会見の打ち切りを宣言

 畠山氏と山中市長との質疑応答が終わると、女性職員は「NHK」と社名のみで再び横浜市政記者会の記者を指名した。

 NHKの記者は前出の及川氏の質問に関連し、「花博を開催しないこともありうるのか」と質問した。山中市長は「検討してまいります」と述べるにとどめた。

 女性職員が「後ろの方」と指名すると、ネットメディア『SAKISIRU(サキシル)』の西谷格氏が「あ、わたくし?」と声をあげた。

 西谷氏も山中市長の経歴詐称疑惑について質問した。山中市長は「詐称はございません」と3回述べた。

 女性職員が「どうぞ」と指名し、フリーランスの横田一氏が「発売中の『週刊文春』の『カジノ業者から違法接待』というタイトルで平原(敏英)副市長の疑惑の記事が出ています」と質問。山中市長は「まず本人に事実関係を確認する」と答えた。

 横田氏と山中市長との質疑応答が終わり、まだ大勢が挙手しているさなか、突如、女性職員が「このあと、予定がございますので、本日は、これで終了したいと思います。定例会見、終了いたします」と宣言した。記者会見開始から35分後のことだった。

 すると、写真週刊誌『フラッシュ』の津田拓也デスクが敢然と立ち上がった。8月2日、同誌は「横浜市長選『野党統一候補』がパワハラメール…学内から告発『この数年で15人以上辞めている』」というスクープを飛ばしている。

「『フラッシュ』なんですけれども、今もですね、(山中市長の)ホームページ上に『憶測をもとにした事実無根の記事』というふうに反論を書かれていますけれども、具体的な反論をいただいていないと思うんですけれども、ここでお話しいただけませんでしょうか」

 山中市長は「『フラッシュ』ですか」と問い返したあと、「ホームページに記載してございますとおりです」と答えた。

 なお、横浜市のホームページの「会見質疑要旨」では、津田デスクと山中市長との質疑応答がなかったことにされている。

 山中市長が退室したあと、私は、ネットメディア『VIDEO NEWS』の神保哲生氏と話した。長年、記者クラブや記者会見のあり方を批判してきた神保氏は「これでは終わらない。山中市長がきちんと説明するまで」と言った。私も、そのとおりだと思った。

――――――

※山中竹春市長の就任記者会見の様子は、畠山理仁氏が動画と文字おこしで公開しています。

動画
山中竹春横浜市長就任記者会見(2021年8月30日撮影)

文字おこし
山中竹春横浜市長就任記者会見・全文文字起こし

大きなスクープを期待する読者には、大きなサポートを期待したい!