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飛田友宏元教諭が記事の削除を求める裁判(1) 「取材・報道の自由」を脅かす名誉毀損裁判の実態!

 私が〈横浜市が性暴力教諭の懲戒免職を隠蔽〉という記事を公開したのが2022年6月22日。

 それから10カ月が経つ2023年4月20日、note運営事務局の羽鳥氏から以下の書き出しのメールが届いた。

〈この度、寺澤有さまが投稿されているnote記事に対して、権利が侵害されたと主張される方から裁判所に対し、弊社を相手とってその投稿記事の削除を求める民事保全命令の申立てがなされ、裁判所で審理中です〉

 これは「仮処分」という「暫定的な処分」を求める裁判が提起されたことを意味する。通常の裁判で権利侵害を回復しようとすると、結論が出るまでに時間がかかる。権利侵害の内容によっては、回復が困難となる事態も考えられる。そこで、仮処分で権利侵害をいちおう回復しておき、通常の裁判で決着をつけるという方法がとられる。

 仮処分の審理は短期間で終了する。裁判所が仮処分で権利侵害を回復する必要があると認めれば、それを実現するための命令が出される。今回のケースでいえば、note株式会社に対し、記事の削除が命じられるわけだ。

 しかし、〈横浜市が性暴力教諭の懲戒免職を隠蔽〉の記事は、note株式会社が作成したものではない。私が作成し、noteというサイトで公開しているものである。だから、note運営事務局からのメールには、以下のように記載されている。

〈つきましては、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)3条2項2号に基づき、削除に同意されるかを照会します〉

 以下がプロバイダ責任制限法3条2項の規定だ。

 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。

1 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。

2 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、侵害情報、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

 ところが、メール全文を読んでも、「権利を侵害されたとする者」が誰かも、「侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由」が何かも記載されていない。にもかかわらず、note運営事務局は以下のように要請する。

〈送信防止措置(寺澤注:記事の削除)に同意されない場合には、その理由を、回答書に具体的にお書き添えください。回答内容については、裁判所にそのまま提出することを予定しています。なお、裁判期日の関係で、おそれ入りますが、2023年4月25日までのお返事をお願いいたします〉

 極めて理不尽な要請だ。

 翌日(4月21日)、私は以下のメールをnote運営事務局へ送った(全文)。

――――――――――――

羽鳥様

 ジャーナリストの寺澤有です。

 本手続きは日本国憲法第21条が保障する「表現の自由」「取材・報道の自由」にかかわる重大なものです。

 直ちに相手方が提出している「侵害情報の通知書兼送信防止措置に関する照会書」を当方へ送ってください。

 現状では、相手方が、どのような権利が、どのような理由で侵害されたと主張しているのか不明で、当方が最適な主張・立証を行うことができません。

 私は、相手方が削除を求めている記事が事実に基づくものであり、公益性も十分にあることから、送信防止措置を講じることには同意しませんし、そのための主張・立証は行います。

 御社におかれましては、上記の日本国憲法が保障する権利の重大性を踏まえ、社会的な責任を果たせるような対応をお願いいたします。

――――――――――――

 メールで〈相手方が提出している「侵害情報の通知書兼送信防止措置に関する照会書」〉となっているのは、〈相手方が提出している「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」〉の誤り。

「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」の見本(法務省ホームページより)

 権利を侵害されたとする者が「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」をプロバイダ(今回のケースでは、note株式会社)へ提出し、それをもとにプロバイダが「侵害情報の通知書兼送信防止措置に関する照会書」を作成し、発信者へ送るという手続きとなる。

「侵害情報の通知書兼送信防止措置に関する照会書」の書式(「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」より)

 しかし、照会の回答期限とされている4月25日の前日の24日となっても、note運営事務局からは一切の連絡がなかった。同日15時16分、私は以下のメールをnote運営事務局へ送った(全文)。

――――――――――――

羽鳥様

 ジャーナリストの寺澤有です。

 下記、送信防止措置請求事件について(寺澤注:note運営事務局からのメールに元のメッセージを含めて返信している)、4月21日11時23分送信の羽鳥様宛のメールで「直ちに相⼿⽅が提出している『侵害情報の通知書兼送信防⽌措置に関する照会書』を当⽅へ送ってください」と要請しました。

 ところが、3日後の24時(寺澤注:24日の誤り)15時を過ぎても、羽鳥様から「侵害情報の通知書兼送信防⽌措置に関する照会書」が送られてこないどころか、一切の連絡がありません。

 これでは、note株式会社がプロバイダ責任制限法第3条2項2号に規定された発信者に対する義務を果たしたとはいえません。

 再度の要請となりますが、直ちに相⼿⽅が提出している「侵害情報の通知書兼送信防⽌措置に関する照会書」(寺澤注:前述のように、相手方が提出するのは「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」で、プロバイダが作成するのが「侵害情報の通知書兼送信防⽌措置に関する照会書」)を当⽅へ送ってください。

 よろしくお願いいたします。

――――――――――――

 しかし、結局、この日もnote運営事務局から一切の連絡がないままだった。

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