見出し画像

球体が見る景色

ここ半年ほど日本科学未来館に通う機会がありました。
「ちぎる」の上映のためにジオ・コスモスの映像調整で足を踏み入れることがほとんどでしたが、そのうち何回かは常設展示を見に行きました。

宇宙開発や医療を中心に、ロボットやデータの送受信、人間の知能などトピックを取り扱い、その名の通り未来へ向けた展示がその建物内に詰め込まれています。

遅くなりましたが、メディア芸術祭に来場して「ちぎる」をご覧になってくださった皆様、誠にありがとうございます。
引き続き、皆様に見てもらえることを楽しみにしていますね。

画像1

あとよく「ちぎる」を見るのはどこからがいいかと聞かれます。
どこでもいいといえばいいんですが、行けるのであれば思い切って5階まで行くと結構面白い景色になります。

画像3

なお、玄人向けにはオーバルブリッジを歩いていって途中にあるジオ・コスモスの上映装置近くの映像パネルから見ると通ぶれます。なにやらAR的にCGが重ねて表示されて謎にハイテクに見えます。ちぎり絵なのに。

画像2

でも孤独のグルメでゴローが「食いたいように食えばいい」と言うように、自分が見たいと思ったところから見るのが一番いいです。
Season9最終回のナポリタン、美味しそうだったな。

話は逸れましたが、そんな日本科学未来館について、ついこないだちゃんとしっかり見ることができましたので、私個人が好きだと感じた展示についていくつか語りたいなと思います。

未来逆算思考

多分3階から入って一番最初に目に入るのがこの展示かと思います。
派手な造作に大規模な映像の投影があり、子どもが遊びたがること間違いなしなんじゃないかと思います。

この展示の趣旨は、理想の未来を届けるために今どうすべきかをゲーム形式で遊ぶインタラクティブな展示です。
目標に向かって、どのようなプロセスを経るべきか、そしていま何をすべきか。科学だけではなく、スポーツや創作でも大事になる考え方の展示ですね。

これは全体を通して思ったのですが、日本科学未来館は科学技術を紹介するというよりも、この技術がなぜできたのか。それからこれが将来どう役立っていくと思うかを鑑賞者に問うようなものが多い気がします。
おそらくそういうスタンスですべての展示が作られているんじゃないかと思います。

そのすべての起点として、目標に向けて今を逆算するというコンセプトのものがまずドカンと来館者を待ち構えているのはなんだかとても好きです。

THE SOUND OF AKIRA

画像4

これはずっと行きたい行きたいと、映像調整をしながら横目で見ていた展示です。この展示は期間限定で来年の2月まで(ネット調べ)だそうですが、AKIRAを見たことある人であれば、その音楽の造詣の深さに唸ります。

またこれを再生するスピーカーが良くて、ホントはこれで全編にわたってAKIRAを見たいくらいです。とはいえあの名シーンは見ることができるので、ぜひ見て聞いてほしいですね。

あと関係ないかもしれませんが、この展示をしている空間の名前が零壱庵っていうのがなんとも渋いながらもハイカラで好きです。
ハイカラって表現も変か。でもこのネーミングセンス、いいなあ。

デジタルにオーラは宿るか?

画像5

これは計算機と自然、計算機の自然にある展示の一つですね。
実際の職人が作った陶器、茶碗とそれをCTスキャンしたデータやデジタルで再現した映像が展示されています。

よくアナログの温かみという言葉を聞いたことがあるかと思いますが、実際それがなんであるのか、データや確固たる論拠を持って説明することは難しいです。

かく言う自分も「ちぎる」では和紙を実際に使ったのは、この温かみを失いたくなかったからではありますが、じゃあそれってなんなの?と問われると正直言葉に詰まってしまいます。
現実から取り込むときに発生するノイズであるとか、人の手による正確ではない微妙なピッチのズレであるとか、なんとなくこれが理由じゃないかと仮説は立てられても、やはり断言はできないです。

デジタルで模倣した紙では「ちぎる」で出したような質感を再現することは難しかった。
そういう、アナログとデジタルでは不確かながらも損なわれるものがあるということを踏まえ、それを失わずに再現できるかという課題をオーラが宿るか?という言葉で説明しているのが良かったです。

最先端が集う科学館で、古きものの素晴らしさを決して無碍にせずに、アナログとデジタルの良いところを探求しようという姿勢が伝わります。

“ちり”も積もれば世界をかえる

※ここ写真撮り忘れちゃいました。せめてリンクだけ…。
https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/world/frontier/

ここ、まず外観や床面に投影されている映像がいいんですよ。ドット絵で描かれた映像なんですが、まずそれ自体もいいし、ドットって“粒”であり“チリ”じゃないですか。
そこのコンセプトの筋も通ってて、素敵だなと思います。

ここでは地球の掘削によって、あるいは遥か彼方を見ることによって、宇宙を知ろうとする様々な試みを展示しています。

ここのはやぶさ2の映像と展示は足を止めてじっくり見たいと思うほど面白いです。はやぶさ2の試み自体が面白いから、といっては元も子もないんですが、よくそんな遥か彼方のリュウグウまで行って帰って、さらに別の小惑星の砂を持ち帰ろうとするもんだと、その計算精度の良い意味で恐ろしさをわかりやすく教えてくれます。
人間の頭脳の力って本当におっかないなと思います。良い意味ですよ。

はやぶさ2、そういえばたくさん砂が入ってたというニュースを見て以来、どうなったのか全然情報を追ってないですが、世界各地で今も砂の研究をしていると思うと凄いことですね。
それにはやぶさ2自体も、また新たな小惑星へ向けて今も宇宙を航行していることを思うとロマンを感じます。

ノーベルQ

画像6

最後にこの展示です。これ入口すぐにあるんですが、多分すぐ目につく未来逆算思考や計算機と自然~のコーナーに目がいってスルーされてしまうかもしれません。

これはノーベル賞受賞者が科学館に来た方に向けて送ったメッセージです。

それだけ聞くとなんてことない展示のようにも思いますが、ちゃんと読んでいくとハッとする言葉も多いです。これは子どもより大人の方がハッとするんじゃないかな。

理解できないような難しい研究を成し遂げるノーベル賞受賞者が、胸に宿す言葉・問いがシンプルで熱量のあるものというのがすごく刺さります。

そうなんですよね、何かを伝えるのに難しい言葉はいらないんです。
もちろん簡単な言葉だけでは伝わらないことは多いし、それを伝えるために言葉ではなく、絵や映像などの力を使って伝えることがあります。
それがアートの役割かもしれませんし、メディアを使う場合にはそれがメディア芸術祭に集う作品のようにもなります。

けど決して忘れてはいけないのは、シンプルな願い、純粋な思いというのは伝えるそれをもシンプルなものに変える。
シンプルなものは、当たり前だとか、なんの面白みもないものと紙一重かもしれないけど、だけどそれが一番混じりけのない洗練されたものだったりする。そういう、純度の高い言葉で自らの心を問える展示だと思います。

見るタイミングはいつでもいいと思いますが、一通り展示を見終わったあと、帰るときにここにある言葉を頭に仕舞って帰ると、なにかその後の日々にも残ってくれる言葉があるかもしれません。


メディア芸術祭は無料で入場できますが、せっかく日本科学未来館まで行くわけですから、たかが科学館と高をくくらずに、一緒に常設展を見るのはいかがでしょうか?という気持ちを込めてこの文を書いてみました。

あなただけの好きな展示が見つかるといいですね。それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?