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WorldMakerという蜘蛛の糸

映像を作る人にとって、絵コンテとは切っても切り離せない関係だ。

数秒程度の映像なら、あるいは趣味で作る映像ならともかく、ある程度人数を巻き込んで制作する映像ならば、絵コンテは必須である。

絵コンテ一つでどんな映像を作ろうとしているのかという方向性やテーマ、その映像の長さや中身からそれが実現可能かどうかの試算、そしてなにより良いか悪いかの決断が出来る。

それをわかっていながらも、なかなか絵コンテというのは難しい。
頭で思い浮かべているものを目の前に出すというのはどうしてこんなに難しいもののなのだろうかと今も思う。

一時期は本当にいかに絵コンテを効率よく作るかと考え込んだことがある。そこでiPadに作業を一元化するとか、エクセルでマクロを組むとか、Blenderで素体を用意してみるとか色々やったけれども、やはり地道に書くのが一番いいという結論にたどり着いてしまった。
急がば回れ、こんなに明確で残酷で正しい言葉も無いなと思う。

そんな思いを抱えている自分にとっては、漫画のネームというのは親近感がある存在である。
多分ネームを書く人も自分と同じ悩みを抱えているもの同士なんだろうと思うと、ともに地獄の煮え湯に浸かる者同士、仲良くしたいと思う。

そんなネームを書く者に、蜘蛛の糸が垂れてきた。
それがWorldMaker。集英社が発表したネーム作成Webアプリである。

このアプリはテキストベースでセリフやナレーションをある程度のセクションに分けて打ち込むと、自動でコマ割りをしてくれる。

さらにそのコマの枠内に、キャラやオノマトペ、背景などのオブジェクトをテンプレートの中から選んで配置できる。そのテンプレートも豊富でキャラ一体にしてもポーズ・表情・アングルで無数のパターンが作れる。

さらに、いらすとやと連携してその素材を使えるので、これだけで十分ネームとして使う分には十分な絵が用意されている。
それでも足りないという場合は、自分で書いたイラストや写真をアップロードできる。いたせりつくせりである。

こんな立派で丈夫な蜘蛛の糸、ガンダタ一人に登らせるのはもったいないじゃないか、ということで漫画のネームとは無縁の、絵コンテ地獄で苦しむ私も、その蜘蛛の糸を掴んで登ってみた。

まあ、要するに試しに2作ほど作ってみた。

まず一作目は「間違いのないこの世界で」。
PSYCHO-PASSよろしく、近未来の警察SFモノを作ってみた。

これがネーム処女作となったわけだが、それでこのクオリティができるならすごいなWorldMakerと度肝を抜かれた。

舞台設定を示す関係上できるだけ簡潔にしたが、それでも説明が多く、結構文字数が多くなった。
そのため、1ページに6コマ以上は表示されないという制約を何度か受けたが、逆に言えばそんなに細かいコマ割りは読者が疲れて読まないよというメッセージかもなと好意的に受け取った。

また、今回はネーム大賞というコンテストも合わせて行っているようなので、そのコンテストのジャンルの一つ「続きが気になる4ページ漫画」にあわせてみた。
次のページを捲りたくさせる、引きとでも言うのだろうか。ページの最後をどこで切って、どうつなげるかそんなことを考えながら作ってみた。

また、この設定だと色々なメッセージが言えるんじゃないかと考えていたらこの4ページには書ききれない設定をNotion書き連ねることになった。おかげで結構なボリュームになってしまった。
この捜査AIを作ったのは探偵の父親で、主人公が幼い頃に捜査AIに母が無実の罪で捉えられるのを見ていて、父は妻よりも自分の作ったAIの言うことを信じたことで主人公は父を憎んでいるとか、氾濫した川に子供が流されて亡くなった事故に対し、それを眺めるしかできなかった大人たちを全員見殺しにしたと判断してAIが全員を逮捕したなどと、外のボリュームのほうが実は多いかもしれない。

このように内容をできるだけ凝縮したい、凝縮したいと思っていても、コマの数には限りがある。そこでいかに省略し、いかに読みやすくが問われるのが漫画家なのだろう。大変だが、面白い作業である。

そしてもう一本が「夏の小さな不幸せ」。
これは「ある夏の日常について」というジャンルを想定し、4ページ以内で完結させる内容とした。

これは結構勢いで作り切ることができた。
多分、前作で操作自体は慣れたということもあるが、なにより4ページ以内で完結させるということが、端的に起承転結で作ることができたんじゃないかなと思っている。

この短さでなにかを描こうとすると、世の中にある既存のキャラクターであるとか、周知の物語みたいなものを使わざるを得ないのかなぁと思った。
いわゆるサンタクロースとか、桃太郎とか、口裂け女みたいな存在である。

そういう視点でTwitterに上がるショート漫画などを読むと、確かに分かりやすい関係性だとかキャラクターが出てくることが多いなと思った。
逆にオリジナルなキャラクターはなかなか出しにくい。そのキャラの説明だけで1~2ページは丸々使ってしまうことになるからである。

そういう思考のもとに座敷わらしである。
でも座敷わらし云々が書きたかったというよりも、誰かがいること/いなくなることの幸せ不幸せを書いてみたかったので、それにちょうど適した配役を探して座敷わらしとなった。

最後のコマの主人公の真顔(ほんのり笑顔感)と、「少し寂しい」と思うその差みたいなものは、漫画が一番表現できるような気がした。
この表現を演技でやるとか、アニメでやるとかだとこのニュアンスは出ないような気がする。
作ることで初めて分かる漫画の凄さも、これによって味わうことができた。


と、そんな感じでWorldMakerの実力をを知るとともに、ネームを作る難しさと面白さを経験できた。
これはまだβ版ということなので、これからもまだまだ進化していくのだと思う。その時もまたこうやってネームを作ってみたいし、ネームだけでも誰かを楽しませることができたなら本望である。

欲を言えば、絵コンテ界隈にも希望の見える蜘蛛の糸がたれてきてほしいところである。この希望はWorldMakerに言い続けたほうがいいのか、それともAdobeとかに言ったほうがいいのか。

ともかくしばらくはまだ、手書きで絵コンテづくりは続きそうだ。

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