今年の10曲(2022年)
毎年書いている、この1年で聴いた曲の個人的な備忘録。去年のはこれ。
Citizen Sleeper soundtrack
今年はインディーゲームのサントラを聴くことに目覚めた年でもあった。中でも、このCitizen SleeperというSFテーブルトークRPGのサントラは、今年一番聴いたアルバムだ。うたた寝から覚める時のぼんやりした気持ちよさに、広大な世界に放り出される時の不安感が付きまとってくるような感覚。作者のプロフィールを見ると、「Boards of CanadaやBrian Enoで音楽に目覚めた」と書かれていて、納得の出来だ。どの曲もSF感があっていいけど、どれか1曲選べと言われれば1曲目の「Density」が好き。
imase with PUNPEE & Toby Fox - Pale Rain
ポカリスエットのCMの曲。imaseは今や売れっ子歌手だし、PUNPEEは板橋区のラッパーのあの人だけど、Toby Foxって誰?と思うかもしれない。このアメリカ人こそは、インディーゲームの伝説のひとつとなりつつあるUndertaleの作者だ。ヘンテコドット絵RPG・Undertaleはその音楽も高く評価されているので、ゲーム業界から飛び出して音楽活動をするのも不思議ではない。でも、そんな人がポカリのCMというかたちで日本のお茶の間に進出するとは誰も思ってなくて度肝を抜かれた。期待に違わず音使いがおしゃれで好き。
ステレオガール - Angel,Here We Come
「ロックバンド」という肩書がこれほど似合うロックバンドも今どき珍しいだろう、というほどのザ・ロックバンド。今年出たセカンドアルバムからはもはや貫禄を感じる。2018年の未確認フェスティバルに出る前からずっと気になっていて、今年ようやくライブを観れて最高だった(まさにこの動画のライブ!)。
Rival Consoles - Vision of Self
イギリスはロンドン、Ryan Lee Westのソロプロジェクト。ミニマルミュージックなんだけどミニマル過ぎないというか、スティーブ・ライヒがモジュラーシンセで育ったらこんな曲作ってそう、という風情の音がする。Pitchforkのレビューとか読むと、クラシックが音楽性のルーツにありつつ、分厚く塗り重ねられたシンフォニーの代わりに音色(timbre)で戦う音楽をやっている(意訳)、と書かれていて納得した。
Bonobo feat. Jordan Rakei - Shadows
Bonoboが最高のライブミュージシャンであることはあまり知られていない。というか、おれは知らなかった。この動画を見るまでは。うねる低音、Jordan Rakeiの憂いを帯びた歌声、そしてその隙間を埋めるように打ちつけられる生ドラム。音源だと「こぎれいにまとめられてるなー」という印象だったけど、ライブはちゃんと生音のざらつきを大事にするようなバランスになっていて、ぐっと来た。何より、Jordan Rakeiめっちゃいいな、と改めて発見した。バンドセットで単独来日公演してほしい…
中村佳穂 - MIU
中村佳穂は、ずっとひとつのことを歌っている、ような気がしている。ただ、毎回ニュアンスが違うので様々に聞こえるだけで。プリズムのように角度によっていろんな色に光り輝くだけで。
口うつしロマンスでは「捨ててしまおう」と歌っていたのが、バンドを組んだ後のLINDYでは「ぜんぶあげる」になった。どちらも、なにかを手放すことには代わりはないけど、手放した先に誰かがいるならそれは、捨てる、ではなく、あげる、になる。自由になること、他者とつながっていくこと、動いていくこと。ひとつの言葉では言い表せないけど、言葉になるよりもっと手前でなにかひとつがテーマとして通底しているような、そんな予感がある。
MIUは「どうにか、より良くなりたい」という曲だという。より抽象的になったようで、逆に具体的でシリアスになったようにも感じられる。アルバムの中でも一番不思議な響きがあって、何度も聞き返してしまった。中村佳穂が歌っているのは果たして何なのか、思いを馳せながら。
TUNIC soundtrack
TUNICは「エルデンリング世代のためのゼルダ」と評されるアクションゲーム。今年の個人的ベストだった。
TUNICの特徴のひとつは、その孤独なゲーム体験だ。主人公は何の説明もなく打ち捨てられた世界に放り出され、看板や書物は謎の言語で書かれていて読めない。味方は誰もいないし、そもそも言葉を発するキャラクターは出てこない。TUNICは、初代ゼルダの伝説にインスパイアされて生まれたらしく、作者はこの圧倒的な孤独さを大事にしているという。
音楽も、そうした世界観にふさわしいものになっている。プレーヤーが孤独感に圧倒されるように、サントラはシンセの音圧で聴く者を飲み込んでくる。普段はこういう過剰なシンセ音の曲はあまり聞かないけど、ゲームの記憶と相まってずっと聴けてしまう。これも、どれか一曲選べと言われれば最初の「To Far Shores」が好き。TUNICのテーマソング。
GOMESS - し
GOMESSは、MCバトルは何度も見たことあって好きだけど、曲はあまりちゃんと聴いたことがなかった。「し」は2015年の同名のアルバムのリードトラック。そんなにテクニカルに韻を踏んでるわけではなくて、ないからこそ、メッセージが刺さってくるいい曲だなと思った。いつかライブ見てみたい。
王若琳 - リンゴ追分
美空ひばりの名曲のカバー。王若琳(Joanna Wang)は台湾生まれアメリカ育ちのシンガーソングライター。日本の曲のカバーを他にもいくつか出している。どういう経緯で見つけたか忘れたけど、たしか俚謡山脈のSpotifyのプレイリスト?を見たら入っていて知った曲。そもそも原曲を聴いたことなかったけど、このアレンジは歌い方が渋くてなんかツボだった。
Kendrick Lamar - The Heart Part 5
これを抜きに今年の音楽を語れない、という衝撃のMV。
といって、何が衝撃だったのかを語るのは簡単ではない。これに限らず、Kendrick Lamerの音楽は難解だと言われるけど、それは、ブラックカルチャーが置かれた状況の複雑さをそのまま表しているようなところがある。今回のMVもまさにそうで、次々と現れる「顔」のチョイスが安易な批評を許さない。それをディープフェイクという気味の悪い技術によって蒸着させる、というやり口もまた見る者を困惑させる。
MVは、冒頭に「I am. All of us」という言葉の引用から始まる。そう、この曲でKendrick Lamarは、「私」と「私たち」について語っている。それは、アイデンティティポリティクス的な、「私たち」をひとまとめにする語りではなく、「私たち」のディテールである具体的な個人を曝け出していくかたちで進む。しかし一方で、それは単なる個人でもない。複数の個人が融け合った奇妙な存在がラップしている。この気味の悪さがどういう意図なのか、わかるようでわからなくて、ただただ圧倒される。
この曲(というかKendrick Lamar)を理解するにはかなりのコンテキストが必要で、正直、自分にはほとんど理解できてないと思う。この記事を読んでようやく少し足がかりができたような気がするけど、半年たってもいまだに理解できていない。それでも、今言える言葉を今絞り出しておきたくて、ここに書き残してみた。
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