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樋口恵一郎『良いFAQの書き方──ユーザーの「わからない」を解決するための文章術』

はじめに書いておくと、この本、タイトルを見て「おっ、面白そう、買ってみようかな」と思う人はそこそこいそうだけど、書かれている内容はたぶん多くの人にとっては直接は役に立たない。この本は、そこそこの規模のFAQを念頭に書いていて、「チーム内のノウハウ共有のためにちょっと FAQ を作ってみようかな」という程度の気持ちではちょっと取り組めないレベルのものになっている(し、たぶん相手がユーザーなのとチームメンバーなのとでは取るべき態度も違ってくる)。

でも、だからこそ、普段は接することのない職人の世界の心構えみたいなものが垣間見えて興味深かった。

たとえば、2章にはこんなことが書かれている。

 一人のユーザーが探したい FAQ はたいてい1つで、ほかのすべての FAQ はそのユーザーにとってはその時点では不要です。1つ FAQ がすばやく見つかることが重要であると同時に、そのユーザーに関係あるかないかがはっきりわかることも重要です。
 極端に言えば、「このサイトには求める FAQ がない」ということでさえ、ユーザーに早々にわかるのであれば、それは良いことです。

これはけっこう目から鱗だった。自分のような素人が FAQ をつくろうとすると、「とにかく書けば書くほど検索にも引っかかるしいいだろう」と考えて何でもかんでも詰め込んでしまいがちだが、1つの FAQ は、1つのトピックについてのみ、過不足なく書かなくてはいけない。1つの Q の中に複数の質問があるのはまずいし、逆に、1つの A に複数の回答があるのもまずい。また、Q と A がそれぞれ単体でよくても、ちゃんと対応関係になっていなければ、まずい。

ではどういう Q や A がいいのか?、という点が3章「Q の書き方」、4章「A の書き方」でそれぞれ説明されている。でも、どちらもそれ単体では語ることができなくて、たとえば、「A の書き方」では、A が条件分岐だらけで長くて読みづらくなってしまう時について取り上げて、

 ユーザーにお知らせしたい情報に条件による場合分けがあるときは、条件ごとにまず別々の端的な A にします。そしてその A になる条件を明示した Qを書きます。

という解決案が示されている。こうして「A の書き方」の章で Q について語らなければならないように、Q と A は切り離して考えることができない。

FAQ は、ユーザーからよく聞かれる Q→それに対する A、という方向で構成するのではなく、A(ユーザーが知りたいこと)がまずあって、それをユーザーが探すためのラベルとして端的な Q をつける、みたいなことなんだなあ、というのが読んだ感想だった。

ただし、そのレベルで FAQ を再構成するのはめちゃくちゃ大変で、片手間でできるような話ではない。後半の章の実務的な内容を見ると、高度すぎておれには無理だな…、と分からされる。でも、もうちょっとエッセンスだけでも自分の文章に活かせないもんかなあ、とか思ってしまってなかなか捨てられずにいる本。

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