佐々木実『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』

まあまあ面白かった。

前半は竹中平蔵がいかにしてのし上がってきたのか、という話。共同研究者の同意なしに成果を勝手に著書にした話とか、コネを使って?博士号を取った話とか、白い巨塔経済学者版を誰か映画化してほしい...、という気持ちになった。政策アドバイザーとして発言力を高めるために博士号や教授の座を踏み台にしていくのはあんまり印象良くないけど、まあでも、のし上がるための手段と見る世界観もそれはそれであるのかもしれない。

第5章の「竹中プラン」を巡る描写は興味深い。政権内では四面楚歌だったがアメリカ政府からは全面的な支持を得ていた、という。この本の竹中平蔵に対する評価は、アメリカで流行っている政策を日本に紹介するだけで経済学的な素養に乏しい、といった具合に手厳しいが、むしろそういう点が重宝されているのではないか、という気がしてくる。とりあえず外交上は、アメリカ通の竹中の言うことを聞いていればアメリカから嫌な顔をされる可能性は低い。もし、実効性がどうか、国内政治的にどうか、ということよりアメリカの顔色を伺うことが優先されているのだとすれば、みたいな暗いことを想像してしまう。

第6章は、2003年のりそな銀行への公的資金注入は、不良債権処理の実績のためにわざと「破綻」する銀行をつくったのではないか、という疑惑について語られている。監査基準を厳しくして破綻と判定させるために監査法人に暗に圧力がかけられ、穏当な基準であれば大丈夫だったはずのりそな銀行は自己資本比率が基準に満たないという監査結果が出された。(遺書は残されていないので関係は不明だが、)りそな銀行を担当していた公認会計士が自殺している。個人的にはこの章が一番衝撃的だった。事の顛末と自殺の関係は分からないにせよ、監査法人に相当なプレッシャーがかかっていたことは確かで、自分が描いたシナリオを実現するためにここまでやるのか、と呆然としてしまう。

残りは主に郵政民営化の話で、これはちょっと退屈だった。郵政民営化は、竹中自身はあまり意義を感じていなくて、小泉純一郎がやりたいことにロジックを肉付けする、というタイプの仕事だったようだ。あまり経済学的な議論はなく、政局の話が淡々と語られる。ここはむしろ、無理難題を振られたことに同情を感じてしまう。

この本のひとつ不満なところは、冒頭で非正規雇用の問題について触れておきながら、それ以上特にこのトピックに分量を割いていないところだ。竹中平蔵が関わってきた政策でまず批判されるのはこの雇用の問題なので、1章分くらいは書いてほしかった。とは思いつつ、この本は2005〜2006年・2008〜2009年の「現代」の連載をまとめたものなので、今ほど注目されていなかったのかもしれない(調べたら、パソナ会長に就任したのは2009年)。

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