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【AISTS #8】 6週目 スイスに本部を置く国際スポーツ組織(2019/10/28-11/3)

先週後半から始まった法律の講義について書いていきます。その内容を踏まえて、スイス(特にローザンヌ)に多くの国際スポーツ組織が本部を置く背景に触れます。

法律の講義の全体像

さて、法律の講義は4つのパート(Sub-module)に分かれています。

Sub-module 1: Legal Entities in Sport
Sub-module 2: Contracts in Sport
Sub-module 3: Liabilities in Sports
Sub-module 4: Settlement of Conflicts

まずはここ2週間で1と2の講義を受けているところです。
2月下旬から3月にかけて後半の講義があって、その後の試験で成績が決まります。
他の科目はプレゼンやレポートがあるのですが、法律だけは一発の試験で決まるので、毎年何人かは落第(追試)の憂き目に遭うそうです。

国際スポーツ組織がスイスに本部を置く理由

スイスには65以上の国際スポーツ組織の本部があり、その中でも特に多いのがローザンヌです。国際オリンピック委員会(IOC)の他にも、スポーツ仲裁裁判所(CAS)、国際体操連盟(FIG)、国際バレーボール連盟(FIVB)などがあります。

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(出典:AISTSプレゼンテーション資料より抜粋)

その背景には以下のような理由があると言われています。

・Associationという法的形態の使いやすさ
・汚職防止関連の法令の適用免除
・各種税負担の軽減
・IOCやCASの存在
・アクセスしやすい地理的条件
・質の高い労働力
・政治的な安定性 / 中立性

一つ目の、スイスにおけるAssociationという法的形態について詳しく見ていきます。
Swiss Civil Code(SCC、日本で言う民法)の第60〜79条が、Associationに関する内容となっていますが、最大の特徴は制度設計において各組織の裁量が大きいことです。そして、この点は他国と比べて特に際立っているとのことです。

The following provisions apply in so far as the statutes of the association do not contain rules on its organisation and on the relationship between the association and the members. (63 I SCC)

要は、基本的にはそれぞれの組織でルールを決めてください、組織のルールで定められていない場合はこの内容に従ってください、というスタンスです。

もちろん、必ず従わなければならない項目はありますが、基本的な内容です。
例えば、

・加盟者(members)全員が参加する総会(General Assembly)が最高の意思決定機関であること
執行委員会(Executive Committee)が組織を運営し、外部に対する代表者となること
・2期連続で以下の3条件を満たす場合は外部監査を受けること
(総資産10百万フラン以上、売上高20百万フラン以上、年平均従業員50名以上)

守秘性の高いスイスの銀行口座が、幹部の不透明な資金の動きに利用しやすいという指摘もありますが、パナマ文書やFIFAスキャンダルを受けた法改正によって、この点は大きく制限されているはずです。
例えば、スポーツ組織の重要人物も「Politically Exposed Persons(PEPs)」として、チェックされるようになりました。

更に、州や市レベルでも、オフィス賃料2年間無料、地方税の免税、従業員の住居保証、ビザ取得手続きの支援など、様々なインセンティブを提示してスポーツ組織を誘致しています。
ただし、これに関してはスイス特有ではありません。例えば、世界ドーピング防止機構(WADA)の本部が2002年にローザンヌからカナダのモントリオールに移転しましたが、この際にはインセンティブの提示合戦となっていたそうです。

それでもローザンヌに圧倒的に多くの組織が本部を置くのは、集積が集積を呼んでいるのでしょう。ロビイング活動、最新情報の収集などには、大きな効果を発揮しているようです。
例えば、アイスホッケーがブリュッセルから、柔道がダブリンから、サンボがモスクワから、ボウリングがテキサスから移転してきました。
また、IOC本部から徒歩10分の立地にあるMaison du Sport International (MSI)には約30もの国際スポーツ組織が入居しています。

一方、FIFA(国際サッカー連盟)の本部はチューリッヒですが、スイス国外への移転を検討していると言われています。理由は、非欧州人材の雇用の難しさと、スキャンダルからの信頼回復のため(詳細は分かりませんが)との報道がありました。
特にチューリッヒは、非欧州人材の労働許可取得がかなり難しいようで、このあたりの事情は州によって大きく異なります。

課外活動(遊び)

週末は東フランスのアルザス地方に行ってきました。ローザンヌから電車で3時間半。Colmar, Wettolsheim, Eguisheim で1日、ストラスブール Strasbourg で1日を過ごしました。
思っていたより観光地でしたが、フランスとドイツの文化が混ざり合う、食事とワインの美味しい街でした。

Wettolsheim は、Colmar と Eguisheim の間にある小さい町で、ワイナリーがたくさんあります。こちらではテイスティングは無料なんですね。
クレマン Cremant と呼ばれるスパーリングワイン専門のワイナリーでの、素朴で熱い2代目オーナーが印象的でした。

来週の予定

月曜日の午前中に試験を受けて、その後は契約関連の講義が続きます。
木曜日には、クラスメートとの日本食パーティーの予定。準備は大変そうですが、おもてなししてきます。

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