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【AISTS #34】 29週目 外出自粛9週目/サッカークラブの経営とUEFAのルール (2020/5/11-17)

スイスでは、5月11日からロックダウン緩和の第2弾で、義務教育やレストランの営業が再開しました。
6月8日の第3弾のタイミングで、AISTSも教室での講義を再開予定です。
大きな講堂でソーシャルディスタンスを保っての講義になるそうです。
私はローザンヌに残っていますが自国に帰っている学生も多いため、オンライン講義も継続し、教室での受講は個人の判断に任せられます。

Business of Football の講義

先週に引き続き、サッカービジネスについての講義を受けました。

前半は、2010/11シーズンのトッテナムのファイナンシャルレポートを使って、損益計算書と貸借対照表の構成、各種評価指標の算出方法、企業価値評価の解説がありました。
個人的にはあまり目新しい内容はありませんでしたが、ポジティブに考えると、前職で培った財務のベースに、ある程度知識もついてきたということでしょうか。

また、財務を学ぶには必ずしも最新のシーズンでなくてもよいとは思いますが、10年近く前の情報を使っているところから、このプログラムに対する講師の姿勢が透けて見えると感じてしまいます。そういうものですかね。

後半は、もう少しマネジメント寄りの講義でした。
プロクラブの経営においては、競技("Shirts")と事業("Suits")のバランスを取る必要がある、という話から始まりました。
その判断のための Fundamental Performance Driver は以下の3つです。

Fanbase
   - Geography:ファンの地理的分布(国内/海外)
   - History:クラブの起源、発展の歴史
Ownership
   - Motives:クラブ所有の目的(名誉、社会貢献、投資収益)
   - Funding:資金源(オイルマネー、事業収益、個人資産)
League
   - Economic size:所属リーグの規模、分配金(放映権収入)
   - Competitive balance:競争均衡、結果の不確実性

強化と業績はトレードオフの関係にあり、強化を進めていくとある時点で業績のピークに達し、更に進めると次第に業績が低下し始めるという論文があります。
行き過ぎた強化の先では財政難に陥り、主力選手の放出、競技成績の低下へのつながっていきます。

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(Dr. Bill Gerrard 講義資料より抜粋)

典型的な例は、イングランドのリーズ・ユナイテッドですね。
1990年代後半から積極的に強化を進め、2000/01シーズンにチャンピオンズリーグでベスト4進出の躍進を遂げたものの、過度な強化による財政難でリオ・ファーディナンドなどの主力を放出、2003/04シーズンの結果でチャンピオンシップ(2部)に降格、そして2007年には破産申請を余儀なくされました。

UEFAクラブライセンスとFFP

現在、欧州サッカー連盟(UEFA)は、クラブライセンス制度とファイナンシャル・フェアプレー(FFP)の大きく2つの仕組みで加盟クラブを統制しています。

クラブライセンス

UEFA主催のチャンピオンズリーグなどの大会に出場するためには、UEFAライセンスの取得が必要です。
各国国内リーグに参加するだけであれば、必ずしもUEFAライセンスは必要ありません。

5つの評価軸とそれぞれの目的は以下の通りです。

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運用は各国サッカー協会が担いますが、リスクがあると判断された場合にはUEFAの監査機関が調査に入ります。

ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)

2000年代後半から、目先の勝利のために選手人件費に過度な資金を投入してクラブの経営が揺らぐ事例が増加しました(上述のリーズもその一つ)。
それを問題視し、UEFAライセンスを持つクラブに対して、財務状況に関するルールが2011/12シーズンから施行されています。
短期的な経営破綻を防止することはもちろん、アカデミーや施設整備への投資による中長期的な成長を促すことを目的としています。

基本的なルールは2つ。

・Overdue Payable
 各期末時点で、未払いの債務が残っていないこと
・Break-Even
 支出が収入を上回らないこと(直近3シーズン)

中小クラブは債務未払いで警告や制裁を受ける事例が多く、主にビッグクラブでニュースになるのは Break-Even ルールです。
オーナーや関係会社からの赤字の補填は認められておらず、スポンサー収入か否かの判断は、議論になりやすいところです。

最近では、2月にマンチェスター・シティがUEFA主催大会への出場禁止を言い渡されたことがニュースになりました。

マンチェスター・シティとパリ・サンジェルマンは、施行当初から常に監視の対象になっているクラブです。
実質的には、それぞれアラブ首長国連邦(UAE)とカタールの国有企業がオーナーのため、異なる名義で資金を拠出することは難しくありません。
今回の制裁は、スポンサー収入として受け取った金額が市場の相場に比べて過度に高額であったことが指摘されました。

当然、ニュースになるのは規定違反の事例ばかりですが、FFP導入の効果は着実に現れており、加盟クラブの総利益(損失)額は2017年にプラスに転じました。

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(UEFA 講義資料より抜粋)

今の新型コロナウイルス影響下では、財務状況の悪化は避けられないので、ルールの緩和が検討されているとのことです。

欧州サッカーへの新型コロナウイルスの影響

翌日には、サッカー界に特化したコンサルティング会社 Club Affairs から、ヨーロッパサッカーへの新型コロナウイルスの影響にフォーカスした講義を受けました。

ヨーロッパには、欧州クラブ協会(ECA: European Clubs Association)という組織があり、55カ国から246クラブが加盟しています。
55カ国を発展度合いに応じて4つのSubdivisionに分類して分析しています。

例えば、Subdivisionによって収入源の比率が異なるので、リーグ戦の中止/延期に伴って生じる影響を見極めて対応を検討する必要があります。

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(Club Affiars 講義資料より抜粋)

一連の対応で見られた課題として、

・統括組織(UEFA、ECA)の初動の遅さ、イニシアチブの不足(ガイドラインの策定など)
・欧州全体での規制(移籍、FFPなど)をかけている一方で、各国リーグの意思決定には権限と責任を持っていない、という構造的な問題
・クラブが最も必要としている資金支援のための体力がない

といったことが挙げられていました。

今後に向けては、

・クラブとしての最優先は選手とスタッフの健康管理
・短期的には資金繰り(各種契約条件の見直し、政府補償の活用)
・中長期的には不透明な状況が続く一方で、eスポーツ、VR活用、社会貢献などの新しいビジネスチャンスが生まれる可能性も
・体力のあるリーグ/ビッグクラブと他リーグ/クラブとの差が広がるだろう

といったコメントがありました。

ご参考まで、Club Affairs が作成している各国リーグ再開予定(5月9日時点)を貼っておきます。
ドイツのブンデスリーガは無観客で再開しましたね。
一方、フランス、ベルギー、オランダは中止が決定されています。

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来週の予定

引き続きBusiness of Footballの講義で、水曜日にグループプレゼンです。
木曜日はキリスト昇天祭(Ascension)の祝日で、金曜日も講義は休みで、4連休です。
金曜日からは2泊3日でスイス人のチームメイトの家にお邪魔して、チームプロジェクトの最終仕上げです。

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