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7年前の夜の風

 ちょうど7年前、この部屋に引っ越してきた。理由は特になかった。職場から近かった訳でもなければ、地元から離れた訳でもない。実家から2駅離れた駅の近く。家賃6万円の1LDK。初めての一人暮らし。

 世間知らずだった僕は、光熱費がいくら掛かるのかさえ知らなかった。料理もできない僕が一人で暮らしていけるだろうかと、不安な気持ちになった事も打ち明けておく。


 鍵を受け取った当日、僕は何も持たずにこの部屋にやってきた。ネットショップで購入した寝具とシーリングライトは届くようにしていたけど、他には何もない。近くのスーパーでタオルとシャツとジャージ一式を購入。

 コンビニで買った夕食を食べたあと、ベランダで夏の風に吹かれ、静かな夜の空を見上げながら初日を終えた。


 それから少しずつ生活に必要なものを揃えていった。まるで自分だけの秘密基地を作っているみたいで、楽しかった事を今でも覚えている。広い部屋ではなかったけれど、僕だけの自由が約束された場所だった。


 何人か彼女が入れ替わり、今の彼女と一緒に住み出したのが今年の1月。今の彼女の良いところは、零したジュースを大量の鼻セレブで拭いても怒らないところだ。

 二人とも細かいことは気にしない、何でも勢いで決めてしまう似た者同士。くだらない事でずっとケラケラ笑っている気の合う二人だけど、やっぱり1LDKは狭かった。ネットで物件を探し、僕たちの新しい住処を見つけた。

 内覧に行く前からこの部屋に決めていた。実際に見て即決。そのまま不動産屋で手続きを行い、引越し業者も紹介してもらった。


 引越しが終わった翌日、今まで住んでいた部屋を掃除した。7年間は、思ったよりも感慨深い訳ではなく、いつも手の届くところにあった思い出たちは、何も無い空間で静かに佇んでいた。


 僕達の新しい生活は、始まったばかりだ。
 家賃:11万円 間取り:2LDK 特徴:ベランダが長い

お、押すなよ?絶対押すなよ?