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ちょっとしたお願い

ブランドをローンチするということは、私自身の意見表明でもある。つまり、これこそが良い香り、これこそが今この世界に必要とされている香りである!という気持ちでブランドを世に出すということを意味している。

今っぽくいえば、“ポジションを取る”ということになるだろう。

ポジションを取る、ということは、当然批判もされる。あんたは全くわかっとらん、あんたがやっていることは間違っている!と言われるわけだ。

香りを紹介する中で、「この香り、私は嫌い」とキッパリ言われることがある。それで傷つくことはない。好みがあるのは当然だし、ポジションを取っている以上、全ての人に好かれる、ということは不可能である。それはとてもよく理解している(それでも若干凹む時はあるが…)。

また、私が取っているポジションは、香水の世界でよしとされているものを否定する部分も当然含んでいるため、香り以外の部分での批判もきっとあるだろう。例えば香水名を数字にする、という部分に違和感を抱く人も多いはずだ。

ポジションを取る以上、そういった批判は覚悟している。もちろん、このように日々書いているnoteも、ポジションを取っているわけで、これに対する批判もあるだろう。

ただ、1つだけ、ちょっとしたお願いがある。このお願いは、とても個人的なものであり、いやいやそんなお願いは受け付けられない、ということであれば、それはそれで結構なのだが、それでもここに表明だけはさせて欲しい。

それは、香料の表記だけを見て香水の好き嫌いを判断しないで欲しい、というものだ。

いくつか理由がある。

1つ目は、提示されている香料は、とても限定的である、ということ。

1つの香水には何十種類も香料が使われていることが往々にしてあり、その中のメインとなる2つ3つを取ってきても、それらが香水の中でしっかりした存在感を持って香っているとは限らない。仮に50種類の香料を使っている香水の中で、ある香料が“一番強く香っている”としても、その他49個の香料が束でその香料にかかったらケチョンケチョンにされてしまう。
それでも、ブランド側としては、香料を提示すること以外に直接的に香りを説明することが今のところ不可能なので、仕方なく提示している。私としても、香料を提示することには正直あまり積極的ではない。また、当然のことながら、全ての香料を提示することもできない。
よって、提示されている香料はその香水全体から見ると、非常に限定的なのだ。

2つ目は、ブランドが提示している香料の情報は不正確である、ということ。

例えば、「オークモス」がメインの香料として記載されているとして、実際に天然のオークモスがその香料のメインとなりうるほど入っているか、と言われると、きっとそんなことはない。なぜならば、天然のオークモスは、規制により使える量がかなり限定されているからだ。
そうすると、合成香料のオークモスが使われることとなるが、残念ながらそれらは天然のオークモスが持つ香りからは程遠い。また、合成香料の中には、ある天然香料の一部分のみを香りとして持つものがある。オークモスだとエバーニルなんかがそうだが、それを果たしてオークモスの香りと呼べるか、と聞かれると、かなりあやしい。
このようなことは多々ある。ローズにしろムスクにしろ、同様のことが当然起こっている。表記に厳格なルールがない以上、この点は不正確にならざるを得ないのだ。

3つ目は、一般の方は香料の本当の香りを知らないケースがほとんである、ということ。

「ムスク」と聞いて、どのくらいの人がきちんと本物のムスクの香りを頭に思い浮かべられるだろうか?また、ムスクの合成香料も幅広くあり、どのムスクが使われているかによって香り方は全く異なってくる。
多くの香水好きは、提示されている香料と自分の鼻が感じ取るものを比較し、その知識の蓄積から“帰納的に”その香料の香りを思い描いているのだと思われるが、帰納的に香料の香りを知るには香水は複雑すぎるし、そもそもブランドが出している香料に関する情報が不正確であるので、帰納法によって導き出される帰結も当然不正確なものとなってしまう。

つまり、提示されている香料のみでできることは、自分の知らないことに関する、限定的で、不正確な情報に基づいた判断でしかない。もちろん、限定的で不正確な情報しか提示できないブランドが悪い、という意見もあるだろうが、今のところ我々ができる文字情報による香りの説明はこれが限界なのだ、残念ながら。

さて、なぜこのお願いをしたか、というと、私の香水に使われている香料のうち3つ程度だけ見て、「この香水は買わないなぁ」と呟いている方をたまたまTwitter上で見つけてしまったからだ。

その方にTwitter上で説明をしようかとも思ったが、どういう書き方をしても、その方からすると“抗議”されているようにしか受け取られないのでは、と考え、やめることにした。

その方を責めるつもりは一切ない。私の香水について、嗅いでいようがいまいが、何を書くのも自由だ。

ただ、少しだけ、悔しかった。

だから、ほんのちょっとした事でも、私の香水に関して気になることがあったら、ぜひ一度香りを試してみて欲しい。販売店が近くにあれば、足を運んでくれると嬉しいし、それが面倒であるならば、京都の香水店『ルシヤージュ』さんにお願いすると、ムエットを送ってくれるように手配している。

そして、もちろん私も、皆様にきちんと香りを伝える方法を常に考え続けている。必ずやいつの日か、良い方法を思いつくので、それまでは、もしよかったら、私のちょっとしたお願いを守ってもらえれば、とっても嬉しい。


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