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4-10という香り

3-17の次は、4-10という香りについて説明する。

“4”という種類の、10番目の試作品だ。

今回リリースする4本の中では、一番試作品数が少ない。一番短い時間で制作することができた作品だ。

この作品のインスピレーションは、ガブリエル・ガルシア=マルケスというコロンビア人作家の名作、『百年の孤独』(訳:鼓 直)のワンシーンだ。以下に引用する。

「最後に、はたと思いあたることがあってトランクをこじあけてみると、宛名はピエトロ・クレスピだが一通も出したことのない手紙が、みずみずしい白百合の花にはさまれ、まだ涙に濡れたままの状態で、ピンクのリボンで束ねられているのが見つかった。」

ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』

ホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラの娘であるアマランタとレベーカ(レベーカは彼らと血のつながりはないが、娘のように育てていた)の2人が、イタリア人ピアノ調律師ピエトロ・クレスピに恋してしまう。アマランタが彼のもとに嫁ぐことが決まってからというもの、レベーカの様子がおかしい。それを不審に思ったウルスラが探りを入れると…というシーンだ。

このシーンを読んだ時、とても強く感じるところがあった。トランクの中の、誰も犯すことのできないレベーカだけの幸せの世界と、その外側の悲しい悲しい現実とのコントラストが、頭の中に明確な像を結んだとき、ギュッと胸が締め付けられた。

この感情をそのまま香りにしたらどうなるか…そんな思いから、この香水を作ることにした。

大切にしたのは「バランス」だった。幸せすぎても、悲しすぎてもダメ。その間を揺れ動く感情を、1つの香りに込めたかった。

香りの系統は、フローラル・アクアティック ・グリーン。

ティアレやイランイランで構成されたモノイ調のフローラルノート、海っぽさのないアクアティックノート、そして芝生のようなグリーンノート、それぞれがバランスをとって、主張しすぎず、1つのアコードを作っている。

その他、ジャスミン、ベチバー、ムスクなどがそのアコードを下支えしている。

とにかく不思議な香りだ。強いていうならフローラルが一番強いとは思うが、この香りをフローラルに分類するのが正しいのかは正直わからない。複雑なわけではないが、どこか捉えどころがない。

この香りは、私をとても切ない気持ちにさせる。レベーカの幸せな気持ちを感じ取ったその次の瞬間、ピエトロ・クレスピとは一生結ばれないという現実を直視する。それが断続的に繰り返される。

最初に書いた通り、この香水を制作する時間は、4本の中では一番短かった。4〜5ヶ月程度で完成したように記憶している。

それはかなり早いタイミングで大まかな構成が決まり、あとはバランスを見つけるだけだったからだ。

そのバランスが見つかったときのことをよく覚えている。フッと、これだ、と思った。フローラル過ぎず、アクアティック過ぎず、かと言ってグリーン過ぎない、4-10というアコードが見つかった瞬間、それまでグラグラしていた天秤がふとした拍子に均衡に到達するイメージが浮かんだ。

この香水は、どちらかといえば女性的な印象があるように思う。また、男性が纏うと、それはそれでエレガントだとも思う。私は、暖かい日にこの香水を纏うのが好きだ。切なくて優しい気持ちになれる。

3-17と同様、比較的使いやすい香りだと思う。

残りの2本、1-24と2-23は、今まで紹介した2本に比べて、かなりニッチ度合いがあがる。こちらの2本の紹介も、ぜひお楽しみに。


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