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母を思い出すとき

親愛なる母へ


こんにちは。お元気ですか?

私は少々疲れています。月曜から金曜まではバイヤー向けの展示会、土日は仙台の百貨店で店頭接客をしておりました。明日月曜も仙台で1件、東京で2件ミーティングが入っています。この忙しさはまだしばらく続きそうです。

私は今、軽いランニングとお風呂を終えて(サウナはやめておきました)、ビジネスホテルの机に向かっています。実はここ数日、あなたに手紙が書きたいとずっと思っていたのです。現在夜11時半。瞼が閉じかかっていますが、書くなら今夜であるような気がしたので、思い切って筆を執ることにしました。

定期的にあなた宛の手紙をnoteに公開していますが、これらはあなたに届いていますでしょうか?インターネットの大海原に放たれた手紙は、Wi-Fiやらを通して天国まで届けられているものですか?今のところ特段返事はいただいていませんが、もしかしたらもしかして届いているのではないかと信じ、今回も手紙を書くばかりです。


さて、あなたの旅立ちから1年と3ヶ月ほどが経ちました。あなたは元気にやっていますか?そちらは快適ですか?

私はどういうわけかひどく忙しくしています。それに加えて心配なことや落ち込むこともあり、少しまいってしまっています。気分転換もうまくできていません。よろしくないですね。

そんなこともあってか、ふと、ここ最近あなたのことを思い出す頻度が下がったように感じました。涙を流すこともめっきりなくなりました。旅立ちの後しばらくは、あんなにも泣きながら生活していたのに。

「去る者日々に疎し」という言葉がありますが、まさにその通りなのでしょう。それはあんなに愛したあなたであっても例外ではありませんでした。あなたの輪郭は、間違いなく少しずつ遠のいています。なんだか寂しいですね。

でももしかしたら、これはいいことなのかもしれません。それだけ私たちは、きちんとお別れができた、ということなのでしょう。あなたと過ごした最期の1ヶ月半のおかげで、私はあなたの「不在」を、かなり時間はかかりましたが、しっかり認識することができたということなのだと思います。


そんな中、あなたのことを必ず思い出す瞬間があることに、私は最近気がつきました。

それは「いいことがあった時」です。

些細なことでも、何かいい出来事があると、あなたに電話をかけているところが勝手に想像されるのです。そんな時あなたは、いつも通りにおしゃべりをしてくれているように感じます。私にはそれを聞いたあなたのリアクションが、手に取るようにわかるのです。あなたがこちらにいた時、私たちはほぼ毎日電話で話していましたものね。

あるいは、あなたは本当に私の電話を受けていて、それに応えているのかもしれません。あなたは私の中にようやく居場所を見つけ、そこから私に語りかけている、とも考えられますね。


在宅介護の1ヶ月半の中は、さまざまな思い出にあふれていますが、その中でもひとつ、今でも頻繁に思い返される出来事があります。

それは、介護生活の最初の頃、まだきちんとコミュニケーションは取れるものの、薬の影響でほんの少しだけボケてしまっていた時のことです。

あなたが睡眠薬を飲んで寝た後、私は別室で作業をしていました。多分noteを書いていたのだと思います。

あなたの部屋から物音がしたので、気になって見に行くと、あなたはベッドの上で座っていました。そしてあのひだまりのような笑顔で、こういったのです。

「本を書いていたの?」

本を執筆したことなんてない私は、少し困惑してしまいました。それでも私は、なぜだか咄嗟に、

「う、うん…」

と答えてしまいましたね。それを聞いたあなたは、いつものトーンで、

「がんばれー!」

と楽しそうに、お茶目にいいました。


私にはこれが、何かの予言であるように思えてなりません。私はいつか、本を書く日がくるような気がしています。

あるいは、あの時実は、すでに本を執筆していたのかもしれません。あなたと過ごした最期の1ヶ月半を綴ったnoteが、いつか本になるということを、あなたは予感していたのでしょうか。まだ書き綴った記事をまとめる作業に着手できていないので、本当に本になるのかどうかは定かではありませんが。


だいぶ長くなってしまったので、そろそろ筆を置こうと思います。手紙を書くというのは素敵なことですね。久しぶりにあなたのことをたくさん考えました。書いている途中に、一度悲しみが胸に溢れましたが、そのことによって逆に癒されたように感じています。

そういえば、お盆まであと2ヶ月ほどですが、今年は帰ってきますか?昨年はきっと天国の新居であれこれ忙しかったので帰ってこれなかったのかと思いますが、今年は落ち着きましたか?

お盆の頃は家にいるようにしておきますので、気軽に帰ってきてください。コロッケでも揚げましょうかね。あの時みたいに、美味しくできるかな。

久しぶりに会えるのを楽しみにしています。

それでは、お元気で。


裕太より

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