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クリエイティブとは

『ぼくは勉強ができない』という山田詠美さんの小説をご存知だろうか?高校生の秀実くんは、勉強はできないけれども、勉強よりも素敵で大切なことが他にたくさんある、と考えている。女の子に人気で、ショットバーで働いている年上のお姉さんが彼女、先生たちからは不良少年のように扱われているようなタイプだ。
そんな彼が、ある女の子から彼の“本質”について指摘されるシーンがある。下記に引用する。

「何よ、あんただって、私と一緒じゃない。自然体っていう演技してるわよ。本当は、自分だって、他の人とは違う何か特別なものを持ってるって思ってるくせに。優越感をいっぱい抱えているくせに、ぼんやりしている振りをして。あんたの方が、ずっと演技してるわよ。あんたは、すごく自由に見えるわ。そこが、私は好きだったの。他の子たちみたいに、あれこれと枠を作ったりしないから。でもね、自由をよしとしているのなんて、本当に自由ではないからよ。私も同じ。あんたの言った通りよ。私は、人に愛される自分てのが好みなのよ。そういう演技を追求するのが大好きなの。中途半端に自由ぶってんじゃないわよ」
(中略)
他の人とは違う特別なものを持っていると思っているくせに。彼女のその言葉を、ぼくは、いつまでも反芻していた。もしかしたら、ぼくこそ、自然でいるという演技をしていたのではないか。変形の媚を身にまとっていたのは、まさに、ぼくではなかったか。ぼくは、媚や作為が嫌いだ。そのことは事実だ。しかし、それを遠ざけようとするあまりに、それをおびき寄せていたのではないだろうか。人に対する媚ではなく、自分自身に対する媚を。

山田詠美『ぼくは勉強ができない』

私はこのシーンに衝撃を受けた。
これはつまり、「奇を衒う」という行為は、常識に囚われている、ということを意味する。「常識」が存在することによりその補集合として「非常識」が生まれるため、奇を衒った非常識な行いは、常識に従属した行いとなるからだ。

「奇を衒う」あるいは「周りと違うことをする」ということがクリエイティブの対極にあるというのは、上記のことで自明である一方、「周りとは違うこと」や、「何か一般的なことの反対」を標榜しているクリエーションはよく目につく。周りと違うという表面的な結果は実際あまり重要ではなく、どうしてその違いが生まれているのか、というところこそに本質があるはずだ。

その違いが生まれる本質的な部分を、ここでは「哲学」と呼ぼう。理由は…かっこいいからです。

哲学はどのようにして培われるのだろうか。私は、とても単純に、自分の頭で考えることにより培われるものだと考えている。
自分の頭で考えることは、案外難しい。これだけ情報が溢れている世の中だから、自分で考えて出した答えのようで、実はどこかから拝借した意見である場合はたくさんある。ましてや自分が好きなものに対してなら尚更である。好きなものだから調べる、知っていることが増える、よって、自分の考えが情報に埋もれていく…

私が“フーテンの香水好き”を自称しているのもここに理由がある。私は、ある部分においては不真面目でいたいと思っている。必要以上に情報を摂取せずに、自分の頭で考え、自分の感覚を自分で知覚できる状態を保ちたいのだ。

だから私は、ブランドを始めるにあたって、香水の世界で「当たり前だ」と思われている様々な常識を、一旦全部ないこととして、余計な調べ物をせず、一つ一つのことに自分で考えて答えを出してみた。香りはどうあるべきか、ボトルはどうあるべきか、パッケージは、値段は、コンセプトは、香水名は…etc…去年1年間は、寝ても覚めてもそんなことばかり考えていた。時間はかかったし、なかなか答えが出せずに悶々としていた時期もあったが、今となっては非常に有意義な時間の使い方であったように思う。そのようにして、私のブランドの哲学は、不真面目に培われた。

自分で考えて出した答えが、まったくもって見当はずれであるかもしれない。きっとそういうことにこれから何度も直面していくのだと思う。それでも、その時その時で、「間違っちゃったねぇ」なんて言いながら、適宜いそいそと軌道修正していきたいと思っている。そういうのは、なんだか楽しそうだ。

まとめると、クリエイティブであるためには哲学が重要で、哲学を形成するには自分の頭で考えて答えを出すことが求められる。そのためには、必要以上に情報収集をしてマニアックになりすぎない事、常識を一旦取っ払って考えてみる事、時間をかける事、が重要だと思う。

『ぼくは勉強ができない』の秀実くんを、私はとても素敵だと思う。それは女の子にモテるからでも、年上の彼女がいるからでもない。彼は、先ほど引用した部分の指摘を受けた後に、一言、

「今の、こたえた」

としか返せなかったのだ。すごく素直で素敵な返答だと思わないだろうか?

もし私が、どこかで聞いたことがあるカッコいい言葉を、さも自分の言葉のように語っていたら、「クリエイティブぶってんじゃねーよ!」と突っ込んでいただきたい。きっと私は、秀実くんみたいにハッとして、「今の、こたえた」とだけ返すだろう…そんな素直なクリエーターに、ワタシハナリタイ。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。次回のテーマは、未定です。明日また考えます。書いて欲しいテーマがあれば、遠慮なくおっしゃってください。

次回も乞うご期待!

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