2-23という香り
この香りは偶然をきっかけとして制作された。
以前紹介した1-24という香水の一番最初の試作品が上がってきた時のこと。去年の2月の話だ。
1-24に重要な要素は、「コントラスト」だった。暑さと寒さ、湿気と乾燥が1つの香りの中に混在している状況を作りたかった。
最初に出てきた試作品、つまり1-1には、暑さと乾燥が大きく欠けていた。ひんやりとした、湿った空気が漂っているように感じられたのだ。
想定していたものからはかけ離れていたが、これはこれで面白い、と思った。
この試作品は私に、霧がかった森を想起させた。
そして、そのイメージは、私にある体験を思い出させたのだ。
ポルトガルのシントラという街。駅を降りて森を抜けると、ユーラシア大陸最西端のロカ岬へとたどり着く。通常なら駅からバスに乗り岬まで向かうところを、私は1人、森の中を歩くことにした。
針葉樹系の香りが、粒になって鼻腔の中で弾けるのを感じた。
その時にふと、幼い頃アゲハチョウの幼虫を育てたことを思い出したのだ。薄黄色の謙虚な卵を家に持ち帰り、孵化後は毎日山椒の葉を与えた。
サナギになり数日後、美しい翅を持ったアゲハチョウが中から出てきた。幼虫期を過ごした家を離れるのが名残惜しいのか、少し戸惑いを見せていたが、最終的にはベランダからひっそりと飛び立っていった。
香水はシントラの森を思い出させ、シントラの森は幼少期のアゲハチョウを思い出させる、という二重構造の思い出を、香りにしようと思った。
それとは別に、調香師からこんな提案があった。
「日本版ウードを作らないか?」
このようにして、1-24と同様、一年ほどの試行錯誤を経て、2-23は出来上がった。
ウード系の香水の王道の組み合わせに、ウードにローズを加え、そこにサフランなどのスパイスを足すというものがある。MontaleのBlackAoudや、Frédéric MalleのPortrait of a lady、The Nightなど、数多くの香水がこの構成を持っている。
私の香水も、基本的にはこれを踏襲し、ウード調ウッディ・スパイシー・ローズという香調となっている。ウード調ウッディ、スパイシー、そしてローズの3つのブロックそれぞれ簡単に説明する。
ウード調ウッディ:
レザー、パピルス、スティラックス、パチュリ、アンバー
通常ウード調の香りを作る際に入れるカストリウムは入れず、変わりにアニマルな側面をレザーを中心に表現した。中東的な側面は薄く、それでいてウードの雰囲気のあるウッディとなっている。
スパイシー:
四川山椒、シナモン、クミン、ジンジャー
他にもいくつかのスパイスを入れているが、このスパイシーブロックの中心をなすのは、四川山椒、別名花椒である。ムエット上では若干薬っぽい印象を与えるが、肌にのせるとレザーの香りとあいまって、綺麗な香りになる。
ローズ:
ローズの中でもフレッシュな部分のみを用い、甘い部分は取り除いた。ゼラニウムに近いローズとなっている。
この香水の欠点は、ムエットの上と肌の上では香り方がかなり違う、ということだ。肌の上で初めて真価を発揮する。よって、もしかしたらムエットだけで判断して購入する消費者の手元にはなかなか届かないかもしれない。
逆に長所は、香りの持続性が高いということだ。特段賦香率が高いわけではないのだが、綺麗な香りが、きちんと長い時間香り続ける。
この香水は、私にエネルギーを与えてくれる。芯を感じるのだ。日常遣いできる香りでありながら、「毎日が特別な日」ということを、耳元で囁いてくれる。
だからきっと、明日のインスタライブも、この香水を纏って行うことになると思う。
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8月22日(土)、日本時間20時〜22時、京都の香水店“Le Sillage”とインスタライブやります。ぜひ観てください!
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