便宜的なウソ 〜オードトワレとは何か〜
ある朝目覚めると、神のお告げがあり、あなたはこれから香水探しの旅に出なければならなくなった。しかしあなたには香水の知識は一切ない。あなたはまずパソコンだかスマートフォンだかを使い、香水について調べるだろう。そこであなたは初めて、香水に種類があることを知る。オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファム(あるいはエクストレドパルファム)…ふむ。
以降
オーデコロン:EDC
オードトワレ:EDT
オードパルファム:EDP
パルファム(あるいはエクストレドパルファム):P
とする。
また、賦香率とは、香水の液体に対する香料の濃度を指す。
巷での認識
いろいろな情報を見てみると、それぞれ言っていることが若干違うことに気づく。下記の表はある3つのウェブサイトを例にとり、上段に賦香率、下段に持続時間をまとめたものである。
どのウェブサイトにおいても、左から右にいくにしたがって賦香率と持続時間が上がることは共通しているが、ウェブサイトによってそれぞれのカテゴリの定義がまちまちである。
また、これらのウェブサイトの中には、「日本の薬事法(現薬機法)においては、それぞれのカテゴリに明確な定義がなされているわけではない」という注記がついているものもあれば、「これこそ正しい定義です!」と自信満々に書かれているものもある。
あなたはここで訳がわからなくなる。そもそもこれらの違いがどれほど重要なのかもよくわからない。
そんなあなたのために、これらのことについてここにまとめておこうと思う。
賦香率と名称
薄々気づいているとは思うが、賦香率と名称に関する明確な定義は存在しない。とは言っても、一般的には、上の表の左から右の名称に向かって、賦香率は上がる傾向にある。
しかしこれはあくまで“傾向”である。実際の例を挙げて説明する。
ある香水クリエーターと話していたときのこと。そのクリエーターは、こっそり、Pと銘打っているある商品の賦香率が3%であることを私に教えてくれた。3%の賦香率というのは、通常であればEDC相当である。
そのクリエーターは、Pと銘打つことにより、顧客を騙そうとしたのだろうか?実際は逆である。その香水には、強く香る香料(ちなみにとても高価な天然香料だった)が多く使われており、賦香率を上げるとあまりにも強い香水となり過ぎてしまうため、3%の賦香率がその香水には最適だとこのクリエーターは考えた。一方で、賦香率が3%だからと言って、EDCやEDTと記載すると、消費者は軽い香りだと勘違いしてしまう。よってこのクリエーターは、あえてPと記載することにしたのだ。
つまり、香りの強さや持続性は確かに賦香率を1つの変数として持つが、使われている香料もそれらを大きく左右する変数であるため、賦香率のみで商品カテゴリを決めるのはナンセンスである、ということだ。
上記の例は消費者の誤解を避けるためのものだったが、もちろんより香料を多く使っている印象を持たせたいという理由から、EDPやPという名称を使っているブランドも存在していると思う。
実際の運用
昨今はEDPやPのように、より賦香率が高い(と思われる)ものを消費者は歓迎する傾向にあるように思う。その傾向はニッチフレグランスにおいてより強く感じる。結果的に、ニッチフレグランスのクリエーターは得てしてEDPやPという名称を使いたがるし、それに伴って実際の賦香率自体も過去と比べて上昇しているようにも思われる。
ところで、なぜそれらの名称に明確な定義がないにもかかわらず、各ブランドはわざわざEDTやEDPといった名称を用いるのだろうか?そこには単純な理由がある。ヨーロッパで香水を販売するにあたり、最低限パッケージにEDTやEDPといった商品カテゴリを記載することが義務付けられているからだ。一方で、賦香率の開示義務はない。よって、ブランドは好きなように商品カテゴリを選ぶことができるのだ。
それらの商品カテゴリにより、適用される規則が違うといった話は聞いたことがないので、それがなんの役に立つのかは正直疑問だが、一応ブランド側から消費者へ、どのくらいの強さや持続時間を想定して作られたものであるか、ということの大まかな説明としての役割は果たしているのかもしれない。
ちなみに、私の香水は、全て賦香率が10%で、EDTとして販売する予定である。賦香率を全て10%にしているのは、色々試した結果、どの香水も10%の賦香率が最適だと思ったからだ。また、EDTという名称は、現在マーケットにあるものと比べてミスリーディングにならないと思い選択した。
まとめ
以前ある香水関係者が、○○というブランドの××という香水(EDP)が日本で販売される際に、「賦香率が3%でEDPはおかしいし、この値段は高すぎる」という主旨のことを書いていたのだが、その指摘は的を得ていない。香水の値段や名称において、賦香率はあくまで一つのパラメータでしかなく、これのみで判断するのは片手落ちだからだ。
タイトルには「便宜的なウソ」と記載したが、賦香率のみで香水のカテゴリを決定するのはミスリーディングになる得ることを鑑みると、それが誠実さをもって行われる限りにおいて、賦香率に見合わない名称をつけることに問題はないと個人的には思っている、という意図を込めた。
ということで、これらの名称はあまり気にせずに香水探しの旅に出ていただければと思う。
あなたはほっと胸を撫で下ろし、また検索を続けていると、次はトップノートやミドルノート、ラストノートなる単語に出くわすはずだ。それについてはまたいつかどこかで書こうと思う。
ここまで読んでくださってありがとうございました。また次回も乞うご期待!