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財政調整基金 ~京都市がコロナ禍で支援が手薄になった原因~

はじめに

「財政調整基金」は自治体の貯金と言われています。コロナ禍に突入したタイミングで京都市は「財政調整基金」が枯渇していたため、コロナ禍での支援が後手後手にまわり、手薄になってしまいました。

「財政調整基金」の仕組みと、枯渇するとどうなるか、京都市はなぜ枯渇したのかを知っていただきたいと思います。


財政調整基金とは

「財政調整基金」は、地方財政法により規定されている基金で、自治体が年度間の財源の変動に備えて積み立てる基金です。財源に余裕がある年度に積み立てておき、経済危機や災害などのやむを得ない理由で財源不足が生じた年度に活用することされています。

基金の積み立てに関しては、地方財政法の第7条で決算で黒字が出た場合は、黒字額の半額を積み立てることが定められています。

基金の取り崩しに関しては、第4条の4で、下記の5つの場合に限り、取り崩すことができるとしています。

  • 経済事情の著しい変動による財源不足

  • 災害が原因の臨時支出・収入源による財源不足

  • 緊急に行う大規模な公共工事の財源

  • 長期にわたる財源育成のための財産取得の財源

  • 地方債の繰上償還の財源

よく、「自治体の貯金」と表現されることがありますが、万が一の事態の際に、市民生活や行政サービスに支障がでないようにするための備えと言えます。


財政調整基金の枯渇で手薄になったコロナ禍支援

令和元年度京都市決算資料 京都市行財政局作成

令和2年4月~5月に、新型コロナの最初の緊急事態宣言が行われました。この間、国民への外出自粛要請と事業者への休業要請が行われたため、併せて、協力した事業者に休業要請支援金が全国で給付されました。

大阪府や兵庫県が法人100万円・個人50万円の支給をする中、京都府は法人20万円・個人10万円の支給でした。その上で、京都府下のほとんどの自治体が、各市で京都府と同額を独自財源で上乗せし、法人40万円・個人20万円の支給を行う中、京都市は上乗せもできず、法人20万円・個人10万円の支給に留まりました。

それ以外にも、例えば、福岡市であれば、休業要請支援金とほぼ同時に家賃支援を行ったりと各自治体が独自財源でスピーディな支援を打ち出す中、京都市が支援を議会に上程できたのは、国からの臨時交付金が決まった5月下旬(実際の給付は6月に入ってから)でした。

休業要請支援金の上乗せも、各自治体の独自の支援も、各自治体の「財政調整基金」を財源に行ったわけですが、京都市の「財政調整基金」は令和元年度末、つまり令和2年3月時点で完全に枯渇しており、何ら独自に動くことができなかったわけです。

グラフをご覧の通り、政令指定都市で「財政調整基金」がなかったのは京都市だけです。


京都市の財政調整基金が枯渇した理由

令和3年度京都市決算資料 京都市行財政局作成

このグラフを見ていただいたらわかるように、京都市の「財政調整基金」は低空飛行ながらも、10億~20億円程度は残高がある年もあります。

地方財政法にある通り、「財政調整基金」は積み立てのルールが決まっていますので、京都市も一定の積み立てはしているからです。

令和元年度11月補正予算資料 京都市行財政局作成

問題は取崩しです。本来は、“財政調整基金とは”で書いた通り、「財政調整基金」の取崩しは、著しい経済変動や災害などの緊急時に限定されています。

しかし、京都市は、「常に経済危機にある」という謎の理屈を使って、補正予算の度に「財政調整基金」を取り崩すのです。

資料の11月補正予算であれば、取崩し6億300万円のうち、5,700万円の児童の移動経路における交通安全対策事業は、高槻での地震によるブロック塀の倒壊の件がありましたので、使用用途としては妥当かもしれません。しかし、大半を占める5億4,600万円は、京都市職員の賞与アップの財源に使われており、およそ地方財政法の趣旨に沿った使用用途とは思えません。

このように、有時のために備える財源を、平時の財源不足の埋め合わせとして使うという運用が当たり前に行われた結果、コロナ禍という有事が実際に来て、いざ必要となった時に財布は空っぽだったということです。


財政規律ガイドラインによる残高確保

「財政調整基金」の残高は、明確なルールがあるわけではありませんが、一般的に、「財政調整基金」は標準財政規模の10%が適正と言われています。総務省が行った全国調査でも多くの自治体が、「標準財政規模の一定割合」を積み立てるべきと回答しており、一定割合に関しては「5%~20%」と回答する自治体が多いという結果になっております。

標準財政規模とは、自治体が通常時に収入として想定される一般財源の規模のことであり、市税収入+地方交付税(臨時財政対策債分を含む)の金額となります。

京都市の場合は、標準財政規模が4,200億円強ですので、5%で210億円、10%で420億円の積み立てが必要ということになります。

多くの自治体では、「財政規律ガイドライン」を定めており、その中で「財政調整基金」の目標を設定し、計画的に積立てを行っています。

京都市では、令和5年の2月に財政規律のための「京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例」が制定されましたが、残念ながら、「財政調整基金」に関しては一切記載がされておりません。

審議でも、「財政調整基金」に関しても言及すべきと質疑しましたが、有事は国が助けてくれるから大丈夫という何とも危機感のない答弁でした。コロナ禍での失態の反省が活かされていないことは怒りを覚えます。


まとめ

  • 「財政調整基金」は、財源に余裕がある平時に積み立てて、経済危機や災害などの有事に使うための貯金。

  • 京都市はコロナ禍に突入するタイミングで「財政調整基金」が枯渇しており、コロナ禍という有事の初動で独自支援が何らできなかった。

  • 京都市の「財政調整基金」が枯渇したのは、有事にしか取り崩せないはずなのに、平時の財源不足の補填に取崩し続けたから。

  • 全国の多くの自治体は、「財政規律ガイドライン」を設け、「財政調整基金」の残高目標と積立て計画を作成している。

  • 京都市は、「京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例」を制定するも、「財政調整基金」については一切言及がされていない。

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