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水道事業の経営環境は厳しい ~20年後には水道料金は1.4倍になる試算~

はじめに

日本の水道水は、全国どこでも安くて安全。海外だと、水道水をそのまま飲むとお腹を壊しますが、日本の水道水の質は世界に誇る水準です。

一方で、人口減少と節水型社会の定着により、基礎自治体(市町村)を事業母体とする水道事業者の経営が極めて苦しくなってきています。20年後には、水道料金は1.4倍程度になるだろうというのが一般的な試算です。

水道事業の課題と現状を知って頂きたいと思います。



人口減少と節水型社会の定着で水需要は右肩下がり

令和2年度決算時資料(京都市上下水道局作成)

直近の下落は、コロナ禍による影響(宿泊施設や飲食店をはじめとした事業者の使用水量減)ですが、それを除いても、この30年ほどの間に、水需要は20%以上減少していることがわかります。2040年には、ピーク時より40%減少すると言われています。

節水型社会と言われても、ピンとこない方が多いかもしれませんが、家電製品の品質が上がり、何も意識しなくても自然と節水になっているのです。

今後はこれに加えて、急速な人口減少により、益々、水需要が減少していくことは確実です。

水需要、つまり使用水量が減少すれば、水道事業者の売上が減少するのは当然です。しかし、水道事業は設備産業であり、使用水量が減ることで経費も減る変動費は小さく、使用水量に関わらず経費が一定である固定費が大半を占めています。結果、使用水量の減少による売上の減少は、イコール「業績の悪化」ということになります。


水道管の老朽化問題が追い打ちをかける

日本の水道の普及は、1960~1970年代に急速に進みました。水道管の法定耐用年数は40年であり、10年ほど前から、全国の水道管が更新時期を迎えています。

しかし、法定耐用年数を過ぎても、更新が追い付いていない水道管が多いのが現状で、記憶に新しいところであれば、2021年に和歌山市の「六十谷水道橋」が老朽化が原因で崩落して大きなニュースになりました。

令和4年度予算時資料(京都市水道局作成)

京都市でも、令和4年度中の老朽配水管(水道管)の解消率の目標が47%となっており、約半分が未更新という状態です。そして、令和4年度だけで、約150億円という多額の予算が計上されています。

この水道管の老朽化問題が、収益が悪化している水道事業者に追い打ちをかけているのです。


水道料金は市町村ごとに全国バラバラ

水道料金は、実は市町村ごとに全国バラバラでかなり金額の差があります。平成31年度のデータでは、1ヵ月の使用料想定の20㎥の料金で、全国で最も安いのが赤穂市で843円、最も高いのが夕張市で6,841円と、なんと8倍もの差があります。

都道府県単位でも、神奈川県が平均2,142円に対して、青森県は4,418円と2倍以上です。全国平均が3,241円、京都市は少し安い2,959円となっています。

つまり、水道料金はこれくらいというものは実は無いということです。厚生労働省は、水道料金は2043年に現在の1.4倍になると試算をしております。


有効な対策は水道広域化

水道事業は、浄水場や下水処理場などの水道関係施設に大型投資をする設備産業です。施設当たりの使用水量が右肩下がりなのであれば、広域化して統廃合し、施設当たりの利用人数を増やし使用水量を増やすのが合理的です。

ただし、現在ある施設は既に投資済みですから、更新時期に合わせて統廃合していくということになりますので、中長期的な話になります。また、地理的に統廃合が難しい地域もありますので、地方では広域化もできないエリアもあります。

いずれにしても、水道事業が厳しい経営環境であり、水道料金の値上げは一定覚悟しなければいけないのが実情です。


まとめ

  • 人口減少と節水型社会により水需要(使用水量)は右肩下がり。

  • 水道事業は設備産業なので、使用水量の減少は業績悪化に直結する。

  • 老朽化した水道管の更新が追い付いておらず、今後も多額のコストがかかり続け、水道事業者の大きな負担となる。

  • 水道料金は市町村ごとに全国バラバラで、決まった目安があるわけではない。

  • 厚生労働省は、水道料金が2043年には現在の1.4倍になると試算している。

  • 有効な対策は水道広域化だが、時間が掛かる上、地域によってはできないところもある。


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