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ふるさと納税 ~京都のポテンシャルが顕在化~

はじめに

ふるさと納税による財源流出額ワースト10位の常連だった京都市は、この数年間の間に、納税受入額が全国自治体の上位13位にまで改善しました。京都市のポテンシャルが顕在化した成果と言えます。

一方、ふるさと納税は、多くの国民に支持されながらも、制度的な問題点が多くあります。とりわけ、ふるさと納税が自治体財政に与える影響を知っていただきたいと思います。


ふるさと納税の意義

総務省ふるさと納税ポータルサイトより

ふるさと納税の意義は、総務省の説明では、「納税意識の向上」「地方への財源移転」「自治体間競争による切磋琢磨」の3点が挙げられています。

また、ふるさと納税の返礼品は地元産品であることがほとんどですので、返礼品需要により地域産品が売れるという経済振興の効果もあります。ふるさと納税の返礼品は上限30%ですので、ふるさと納税金額の約30%が強制的に財政支出され有効需要を生み出します。

総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年度実施)

また、国民にも好評で、ふるさと納税の受入額・受入件数ともに右肩上がりで増えており、ふるさと納税のマーケットは拡大し続けています。


ふるさと納税による自治体間の不公平

特別区長会作成資料

ふるさと納税は、住民が居住自治体以外の自治体に寄附をすることで、居住自治体への住民税が寄附金控除で減額されるという仕組みです。従って、寄附を受けた自治体は寄附金収入が増え、居住地自治体は住民税収入が寄附額分減少します。

次に、地方交付税というのは、税収が1増えると地方交付税が3/4減り、税収が1減ると地方交付税が3/4増えるという仕組みになっています。

従って、住民税が流出した自治体(居住自治体)は、ふるさと納税で減った住民税の75%は地方交付税で補填されます。ただし、これは地方交付税をもらえない不交付団体(税収がそもそも多く地方交付税が不要な自治体)は補填されません。

逆に、ふるさと納税で寄附を受けた自治体は、税収が増えたのではなく寄附金収入が増えたことになるので、収入は増えていますが、地方交付税は減額されません。

つまり、もらった側は全額もらえて、流出した側は国から75%が補填されるということになります。この財源は地方交付税なので、結果として、地方交付税全体の分配原資が圧迫され、関係ない自治体の地方交付税までが減ることとなります。


ふるさと納税により全体としての財源は減少

もう1つの課題は、返礼品及び事務費の掛かる経費分、純額としての収入が減るということです。

一時の返礼品の過当競争を問題視した総務省は、返礼品は寄附額の30%以内、事務費を含めて金額で50%以内というルールを敷いてます。

多くの自治体は、このルールの上限まで支出をしていますので、ふるさと納税により得た収入は半分が経費で消え、半分しか財源になりません。これは、地方全体で考えると大きく税収を失っていることになります。

先述の通り、これを経済振興のための財政支出と捉えることもできますが、多くの自治体が厳しい財政状況の中で、全体として財源を大きく失っていることが果たして正しいのかは疑問です。


京都市におけるふるさと納税

ふるさと納税の寄付額と流出額 (京都市作成)
ふるさと納税の寄付額と流出額 (京都市作成)

京都市は、ふるさと納税の制度自体への問題意識があったこともあり、令和元年度までは過度な返礼品競争には与しないとして、あまり力を入れて来ませんでした。そのため、ふるさと納税による財源流出額ワースト10位の常連となっていたのです。

その結果、寄附の受入が1~2億円にも関わらず、住民税の流出額が膨らみ続け令和元年度には39.1億円にまで増えます。75%は地方交付税で補填されるとはいえ、25%の9.8億円は京都市の減収になります。これに受入額の2.6億円を相殺しても7.3億円の財源がマイナスです。

ふるさと納税の制度には、課題を感じていながらも、制度が運用されている限りその枠内で頑張らざるを得ないのが自治体としての立場です。

後に財政破綻の危機に陥るほど、京都市の財政は厳しい状況でしたので、令和2年度以降(特に令和3年度以降)は、ふるさと納税に注力をすることに方針変換しました。

京都市令和5年度予算資料

返戻品のメニューを数倍に増やし、PRも本格的に開始します。コロナ禍では、多くの方が外食を控えていたこともあり、有名料亭の「おせち料理」が爆発的に人気を集めました。また、コロナ禍の中でも比較的感染状況が落ち着き、GO TO TRAVELなどが実施されている時期には、市内のホテルや飲食店で使えるクーポンやポイントなどの「旅行型返戻品」が人気があります。

結果、令和元年度は2.6億円だった寄附受入額が、令和2年度には17.6億円、令和3年度には62.3億円、令和4年度は12月末時点(年度末は3月)で92億円と鰻登りに増えています。

ただし、ふるさと納税のマーケット自体が拡大していますので、寄附額の増加も全体のパイが増えていることも影響しています。更には、同時に流出額も増え続けており、差し引きの収入が額面ほど一足飛びに増えているわけではありません。

総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年度実施)

令和3年度の62.3億円は、全国の自治体の中でも13位につける好成績です。

京都は、財政破綻の危機や人口減少数全国ワースト1位など、様々な厳しい状況下が続いておりますが、ふるさと納税の健闘ぶりを見ると、やはり、多くの日本人にとって京都は魅力を感じてもらえる、ポテンシャルの大きい街だと実感します。京都のポテンシャルが顕在化した片鱗ではないでしょうか。

他の分野でも、京都のポテンシャルを顕在化させていくことが、今、京都の政治に求められています。


まとめ

  • ふるさと納税は「納税意識の向上」「地方への財源移転」「自治体間競争による切磋琢磨」に加え、経済振興の側面で意義がある。

  • 地方交付税でのルールで、ふるさと納税を受けた側は満額もらえて、ふるさと納税で流出した側は、国から75%が補填される。

  • これらのルールにより自治体間での不公平が生じている。

  • 返戻品は寄附額の30%以下、事務費を含めて50%以下というルールがあり、つまり、財源の半分は返礼品と事務費で消えてしまい、全体としての地方税収を失っている。

  • 京都市は、令和元年度までふるさと納税による財源流出が全国ワースト10位の常連だったが、令和2年度以降、本格的に取り組んで、令和3年度にはふるさと納税の寄附金受入額が全国で13位に。


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