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“毒親ママ”美香の断捨離&掃除機がけ Part1


 私は渡辺美香、29歳。

 都内でOLをしていたが、晴れて結婚し、今では理想の専業主婦。夫と息子の3人で、都内の高層マンションに一年前に引っ越した。


 一人息子の颯太は6歳で、今は幼稚園に通っている。園長先生に聞けば、園内でも群を抜いて飛びきり優秀だそうで、さすが、愛する我が子だと思う。

 ただ、もうすぐ私立小学校の入学試験が控えているので、もうすぐその幼稚園には通わせられなくなる。でも、どうせ自分の子供以外は比較もできないくらいの子供と親しかいないところ。辞めたって何も害はない。

 元々あの幼稚園は勉強に対する環境が良いと聞いて入れさせたが、いざ行ってみれば何も考えていないような親ばかり。しかも、園内に掃除が行き届いていない。綺麗好きの私は、あの倉庫の奥に落ち葉が溜まっているのをみた時に吐き気がしたものだった。

 「辞めたくない」と、颯太は泣きながら言ったが、受験のためにはあんなところ一刻も早く辞めるべきだ。

水曜日

 そう思い、今日は早速、リビングで、幼稚園を辞めるための書類を書いていた。


 しかし、最近の颯太は、勉強はしているものの、いろいろなおもちゃで遊ぶ日も増えた。特に夫の親が色々なおもちゃを送りつけてくるため、引き出しにも入らないくらいのおもちゃで、リビングと颯太の部屋は溢れていた。
 上手く収納しようと思えばできるのかもしれないが、いかんせん、受験のためにはどんなおもちゃでも害悪でしかない。
 そう思い立った私は、部屋で夢中になって遊んでいる颯太に、一応その旨を伝えることにした。

「今度、お家のリビングと颯太の部屋にあるおもちゃ、ちょっとお片付けのために捨てるからね。」
「うん、わかったー」

 遊びに集中している颯太がちゃんと聞いていたかどうかは分からないが、まあそれはどうでもいい。どのみち明日になったらそのおもちゃも捨てるのだ。

 「フゥ」といきを吐いた私は、リビングに戻り部屋を見まわした。今日からやり始めようかと思ったが、まだ書類も書けていないし、その後は夜だ。夜に片付けるのは音がうるさいし、それにご飯を作って颯太をお風呂に入れ、寝かしつけなければならない。
 今日だけは我慢しよう。そう思い、目の前に落ちていたウルトラマンの人形だけを拾うと、ゴミ箱に捨て、また書類を書くのだった。
 明日と明後日は燃えるゴミの日。片付けるにもちょうどいい日だと思った。

 木曜日

 昨日から金曜日まで、夫は出張で家にいない。
夫の仕事に迷惑をかけることもできないため、今日と明日でやるしかない。

 「いってらっしゃい♪」
 そう笑顔で颯太を送り出した後、時間を見るとすでに午前9時をまわるところだった。

 早速片付けに取り掛かった私は、ゴミ袋と掃除機を手にし、リビングから手をつけることにした。

 それにしても今見れば酷い散らかりようだった。床にはちらほらフィギュアや小さな車のおもちゃが落ちているし、棚の上は、写真の他は全ておもちゃで埋まっている。

 「はぁ」
 そうため息をついた後、床に散らばったおもちゃを捨てていくことにした。
 フィギュアや車など目に見える大きなものを拾っていくが、それ以外の細かいものもいくつか落ちていた。おままごとの小さな部品や、義母が送りつけてきたものの、男の子のため遊ばせてこなかったシルバニアの小物まで、なぜか落ちている。
 少しだけイラッとしながら、大きなものだけ淡々と散らばったおもちゃをゴミ袋に入れていった。
 小さなおもちゃであれば、大体のものは掃除機で吸えるだろう。わざわざ、拾うこともない。

 厄介な棚の上の物も次々とゴミ袋に入れた。すると、おもちゃをどかしたことで、棚の上にホコリが被っていることに気づいた。

(やっぱりおもちゃはいらないわ。一刻も早く無くすべきね。)

 そう思い立った私は、棚の上のおもちゃを全部ゴミ袋に入れた後、一緒に持ってきてあった紙パック掃除機を手に取った。

 この掃除機はこの家に来る時に買った紙パック式のもので、とにかく吸引力があるものと思い選んだ掃除機だ。

 買ってきてから何度も掃除機がけはしたが、吸引力が落ちることはない。隙間などにノズルを入れれば、高確率でカチカチッという音と共に何かが座れる音がする。
 それでも、吸ったものの中身は一度も確認したことがない。が、自分の大事なものや高価なアクセサリーなら別の場所にしまってあるので心配はないし、他の何かであったとしても、隙間に転がりこんでいる時点で、それはいらない物だろう。
 それに、このカチカチッとノズルをゴミが通った音は、家が綺麗になっていく音のようで、私には快感でもあった。

 他にも吸引力が強いこの掃除機には、落ちていたブロックやティッシュ、子供の靴下やベランダの落ち葉など、いろいろなものを吸い込ませてきたが、一度も詰まったことがなく、私自身、結構な信頼をおいている掃除機だった。

 ギュイーーーーン

 掃除機のボタンの「強」を押すと、おいてあるものがまあまあ少なくなったリビングに、慣れ親しんだ音がよく響いた。
 まずは早速、床に掃除機をかけ始めた私は、少し楽しみなことがあった。

(今日はどれくらいカチカチできるのかしら。)

 そう、恋にではないが床にしろ棚にしろ細かなパーツやおもちゃなどは落ちているし、隙間にはまだ何があるかわからない。しかもホコリをかぶっている。

(まあ何にしろ、私が全部吸い込んであげるわ。)

 そう思い立った私は、早速T字ノズルをとりつけて、床のジョイントマットに掃除機をかけ始めた。

ギーーン、カチカチ、カチカチカチ、キーーン、
カチッ

 掃除機の吸う音と共に、あの音が聞こえる。
 早速、最初の獲物としてシルバニアのパーツが吸い込まれたかと思えば、ブロックや細かいパーツ、シールやプラスチックの破片などが次々と私の掃除機の餌食になっていった。

 それでも私は躊躇なく掃除機のヘッドを被せる。今までホコリや砂などの正真正銘のゴミをかきあげ、吸ってきたT字ヘッドのブラシと吸い込み口で、颯太をダメにするおもちゃを片っ端から吸い込んでやった。
 紙パックの中に溜まったホコリの中に入ったおもちゃたちは、これからゴミとなって焼却されるのだ。

 それを考えた私はもう、掃除機がけを止めることはできなかった。

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