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毒親ママは、全部掃除機で吸い込みます!



 私は渡辺美香、32歳
 20代で夫と結婚してから息子の颯太も生まれて順風満帆な生活を行なっており、一昨年には二人目の京香が生まれた。

 今、無性に掃除機がけがしたくなっている。一昨日掃除機をかけた時に、棚との隙間や物の影にチラホラとホコリが見えたからだ。

(さっさと他の作業を片付けて、早く掃除機をかけてしまいたいわ。)

 普段生活する段階から、髪の毛やホコリが目につくだけですぐに掃除機をかけたくなるほど潔癖症の私は、なるべくどこもかしこも清潔にしておきたい。ドアの隙間に潜むホコリや、キッチンの奥に潜む米粒などがあると想像するだけで、私はすぐに掃除機がけをするくらいだった。
 しかし、そんなことをしている暇がないほど私は今子育てに忙しかった。二人目の京香が生まれてから、多い時は1日に三回掃除機をかけれていた日々から、良くて1日一回にまで減ってしまっていた。食べこぼしがあっても体力的に寝てしまうことが多く、その都度私の心にはイライラが募っていくのが分かる。

 そんなこんなで忙しかった日々も、京香が保育園に入園したことでやっと時間が確保できるようになり、美香は久しぶりに家の片づけを行うことを決意したのだった。

 そうとなれば早速戸棚の中から大きなごみ袋と掃除機、それに替えの紙パックまで取り出してきて、早速テーブルの周りに並べて準備を進めた。少し散らかってはいたものの、美香はなんとか時間を見つけて片づけを行っていたため、床に衣服が散乱していたりすることはない。しかし、その分床に散らばるお菓子の食べこぼしがフローリングのすきまに入り込んでいたり、髪の毛やお菓子の袋の切れ端などが平然と落ちている。まるで昔の美香からすれば考えられないような家の惨状に唖然としながらも、今すぐに掃除機をかけたい衝動を抑えながら、落ちているものや散らかっているものを淡々と仕分けしていった。

(ふん、これもいらないわね。)

 美香はまた一つ、特に悩むこともなく手に持ったゴミ袋の中に物を投げ捨てた。キラキラとした砂がちりばめられた、手作りの写真たてのようなものだ。颯太が五日の工作で制作した物だろうが、その後リビングに取っておいてあるだけで何かに使ったことはなく、うっすらとホコリが被っていた。美香の大好きな颯太が作ってきたものではあるものの、ホコリが被っていた時点で美香にとっては論外だった。
 こうしてきらびやかな手作りの写真たてが、ゴミだらけのゴミ袋の中に埋もれていくと同時に、次々とそれまで美香の家にあったものが投げ捨てられていった。
 そして、美香はあらかた目につくものを捨て終わると、少しホコリっぽくはあるものの開放的になったリビングを見て、

「よしっ!待ってなさい、全部吸ってやるんだからね!」

と、潜むゴミたちにそう言ってから、早速掃除機掛けの準備を始めた。

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