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地方が抱える構造的課題と新陳代謝の欠如

いかなる共同体も、時代の変遷に伴って、当然求められるものは変わっていく。

企業を例に考えてみよう。

日本的経営の限界が指摘されて久しいが、その背景には、硬直的な新卒一括採用・終身雇用制がビジネスのトレンドに即していないという現実が背景にあると指摘されている。

変動激しい社会に合わせて、よりイノベーティブで流動性が高く、機動性の高い経営体制に移り変わっていく必要がある一方、大企業は既存の巨大な体制を抱えたまま即座に対応することができない。それは、大企業の抱える社員が、過去のビジネストレンドに合わせて採用・教育された人材であること、複数のビジネスモデルを一つの組織の名の下に集約させているがゆえに、意思決定過程が長くドラスティックな軌道修正ができないことなどが原因として考えられる。

結果、そうした閉塞感を打開しようと、大企業においてもスタートアップとのオープンイノベーションやCVC設立を進める動きが目立ってくるようになった。

つまり、あらゆる組織は、時代の変化に合わせて、古い機能・不必要な機能を閉じ、新たな動きに資金的・人材的に投資をする、新陳代謝を生み出すシステムをその存続の条件として求められているのである。

このように考えると、地域という共同体が有する構造的欠陥が浮かび上がってくる。

それは一言でいえば、人材の流動性がその性質上極めて低く、新陳代謝を促すメカニズムを構築することが困難であるという点にある。

仮に、新たに地域にシェアオフィスを作りたいと考えた実業家がいたとしよう(こうした新たな動きを模索する人々を「革新層」とここでは呼ぶ)。

ところが、もともと保守的だったその地域は、「シェアオフィスってなんだ?」「変な人が来たらどうするんだ!」と彼の提案に見向きもしない(こうした対抗勢力を「保守層」とここでは呼ぶ)。マジョリティが伝統的価値観にとらわれた保守層である場合、シェアハウスを作るという新たな提案がコミュニティとしての合意に至るまでに、非常に大きなハードルが存在することになる。

まったく同じ話が行政にも当てはまる。

残念ながら今の社会システム上、行政のトップを務めるいわゆる政治家はマジョリティの方向を向かざるを得ない。
結果、それがどれだけ大切だろうが、小さな新しい動きを生み出す革新的マイノリティよりも、マジョリティを占める保守層を重視せざるを得なくなる。企業のようにマジョリティをえいやで解体したり、新たなコミュニティを形成して既存のコミュニティに置き換えることができればよいが、土地に結び付いた人々をそう簡単に交換することはできない。
こうして、いつまで経ってもそのコミュニティが変わるという事態が発生しない、硬直的構造が生まれてくる。

こうした前提に立ったとき、ひとまずフィージビリティを無視すれば、大きく二つの方向性が考えられる。
一つは、保守層を含むコミュニティ全体の価値観をドラスティックに変える何かが発生する(または発生させる)こと
もう一つは、地域を一つのコミュニティと捉えるのではなく、特定の価値観を共有するコミュニティ(今回でいえば革新層)を細分化させ、彼らに自己決定権を付与することである。

一つ目の解決策は、(起きなくはないだろうが)どの程度人為的に発生させられるかは至って不透明であり、いったん今回の議論の焦点からは外しておくとすると、現実的に我々が取り得るオプションは、後者ーつまり既存の地域コミュニティを解体し、保守層と革新層を分離することで新しい価値を生み出すコミュニティをしっかり守り、その規模の拡大を全力で支援する以外にないのではないだろうか。

この観点を政策的文脈に落とし込んで考えてみると、一時期話題となった、「100人の村を創ろう」運動や「スマートシティ構想」は、思想的にこの延長線上にあるように見えてくる。
つまり、「村を作ること」や「テクノロジー主体のまちづくりを行うこと」そのものが目的なのではなく、それらの思想に共鳴する人間を一定数集め、彼らの王国を作ることにより、一定の価値観と性質が共有された共同体を形成することが真の目的なのではないだろうか。

そうしたときに行政の役割は、とにかく彼らの邪魔をする人たちを排除する、具体的には、権限や予算を分化させる保守層が不満を有しないようにこれまでの行政サービスは継続して提供するといった対応が考えられよう。

また、この時、行政内部の人材調整も重要なファクターになってくると考える。

例えば、行政にしても、こうした保守層と革新層がいるはずである。行政が、必要なサポートを彼らに提供し、善き伴走者となるためには、きちんと新たな取り組みを始めようとする地域住民と行政人材が手を取り合い、小規模でも協働することができる体制を整えるのが肝要である。これを「ビジョンドリブンな協力関係」と呼ぶ。

官民連携と言われて久しいが、その際最も重要なことは、この「ビジョンドリブンな関係性」を構築できるか否か、そしてそのためには、職員のうち、だれか革新的気質を有するかという人材の見極めが必要になってくると思う。
組織ではなく、より個人に密着したシステム運営が、行政側にも求められているのである。

また、二つ目の解決策の分派として、共同体の意思決定に関わる層に人為的に制限を設けるといった解決策も考えられる
これは、これまでの地域の代表者や代表機関(自治会など)を決定する際、何らかのルールを設けることにより、人材の循環を促進する仕組みを構築することである。例えば、「自治会の意思決定者は40歳以下とする」といった要件を定めてしまえば、若い人材をより地域の中枢的ポジションに据えることが可能となる。このように、地域全体の人材の流動性を高めることはできなくても、地域の将来を決めるポジションにいる人たちの流動性を高めるという発想は必要になってくるのではないだろうか。



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