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無自覚な無責任さを持たないようにウェブ制作の現場で考えること

粗末なウェブサイトを目撃したとき、なぜそれが作られてしまうのか、作られてしまったのかをよく考えることがあります。いろんなことが関係しているし、状況は様々なのは理解しているつもりです。政治的な理由など仕方ないこともあるでしょう。しかし多くの場合、理由のひとつとして「無自覚な無責任」があるのではないか?と考えています。

今回の話は、自分も所属し生業としている「ウェブ制作」に関しての言及であり自戒です。制作会社やフリーランスでウェブサイトの制作を受注している者にとっての範囲と思ってください。制作を内製している企業の現場とは状況が異なることは前置きしておきます。

たまたま今、動いているだけ

フロントエンドの領域、細かくいえばインタラクションやマークアップにおいて、メンテナンスを考慮していない実装が非常に多い印象があります。メンテナンスを考慮していないというよりも「メンテナンスが必要だと認識していない」な実装です。あたかもそれが未来永劫意図通り表示され振る舞い続けると信じているような――。

これが起こる原因は、中途半端なブラウザへの過信だと思っています。ブラウザの進化と互換性への誤解があるんじゃないでしょうか。現在のブラウザで動作していれば、それはずっとそのまま変わらないと思っていて、標準化されていて互換性が守られるものと、「たまたま期待通りに動いているもの」の区別がついていないのかもしれません。

  • 非標準で安定していないハック的な実装

  • 仕様とアクセシビリティサポーテッドが確立していないWAI-ARIAの活用

  • CSSの絶対値による実装

  • メンテナンスが保証されないライブラリの採用

  • ブラウザ固有の実験的技術の採用

これらは今に始まったことではなく昔からあることで、「別に普通なのでは?当たり前では?」と思っている人もいるんじゃないでしょうか。しかし改めて、メンテナンスが必要ならメンテナンスを計画に入れたり保守運用する契約を提案するのが開発側の責任と思います。契約できないのでれば、メンテナンスを極力必要としない設計を決めて請け負うべきです

無自覚な無責任

必要なのはわかっているけど『顧客の要求がないので、そこまでは提案しない』と割り切っているというところもあるでしょう。そういうところは…正直始末に負えません。その程度の仕事の向き合い方らならその程度なんでしょう。いずれ質の悪いサービスと認知されて淘汰されることを願うばかりです。

しかし本当の問題は「メンテナンスが必要だ」と思っていない場合です。「無自覚な無責任」が発生している状態と言えます。そりゃ知らないもんは知らないでしょう、知っている人間のポジショントークだ、と思われるかもしれませんが、だからこそ問題提起をしているわけでブログにしたためているわけです。これを機会に少しでも意識してもらたえたらと思います。

請け負えないならメンテナンス不要にする

では具体的にどうしたらいいのかですが、先に言ったように2択です。

  • 責任持ってメンテナンスを請け負う

  • 顧客にメンテナンスしてもらう

責任持ってメンテナンスを請け負う

これならいくら冒険してもいいと思います。契約内の許す範囲で実験的なこともやっていいでしょう。特殊な実装をしていて、それが原因で問題になってもすぐに修正すればいいのですから無責任にはなりません。

顧客にメンテナンスしてもらう

これは顧客にこの必要性を説明した上で成り立ちます。今の多くの制作現場と顧客の契約ではここに落とし所でしょう。実際は制作の知識がある人が顧客の中にいたり、内製部隊があるけれどリソースの関係で制作会社に外注しているケースもあると思います。そういった場合、どのような体制でメンテナンスが継続できるのかヒアリングしておくことも大事です。

そして、なによりも「メンテナンスを極力減らせること」が求められます。ウェブ技術や経験者がいないメンテナンスをできない企業もあるわけですし、先の内製部隊があったとしてもリソースの問題も絡んでくるわけです。そうなってくるとメンテナンスしないに越したことがないのです。顧客にとっての「予想外のランニングコスト」を生み出さないために、できることは最初から潰しておくのです。

メンテナンス不要なウェブサイトとは

完璧にメンテナンス不要にすることはできませんが、極力減らすことは可能です。先の言っていることと矛盾があるかもしれませんが適切にブラウザを信じることです。適切に「ウェブ標準に従う」と言い換えてもいいでしょう。

以前、PWA Nightで登壇した時のセッション「業務でしばらく役に立たない最新のHTML 2023」でそのヒントを語っています。

このスライドではまだブラウザの実装が追いついていないものを紹介していますが、仕様として決められた以上、おそらくウェブという概念か人類が消滅しない限り互換性が保たれると思います。少なくとも破壊的な変更がある場合は長い移行期間や何かしらの配慮がされるでしょう。

ウェブ標準はいわば「お約束ごと」です。ウェブを活用するみんなが「守るべきこと」になります。そこに乗じた実装であれば、なにかが急に変わったり、ぶっ壊れたりすることはなく、メンテナンスは不要になるはずです。

堅牢なウェブ

「納品したら終わり」な時代ではないと言いつつ、事実上そうなっていることは少なくないと思います。しかし、万が一納品して終わりになったとしても、つくったウェブサイトが、メンテナンスが不要で余計なコストがかからない、そしてたまたま壊れたタイミングにユーザーが遭遇することもない、そんな堅牢なサイトであることが制作を生業とする人間の責任なんだと考えています。

「堅牢」というウェブアクセシビリティの原則を広義的に考えたときのお話でした。

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