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化石の日

我が家の自家用車に乗ると、国の祝日や、クリスマスなどの主だったイベントでなければ、かならずその日が何の記念日なのか、ひとこと音声が流れる。「今日は○○の日です」といった具合に。

自動車は言ってくれなかったけれど、今年の10月15日は「化石の日」だったらしい。今年は、感染症拡大防止の事情もあって、オンラインで様々な興味深い試みがされていたようだ。そのおかげで、ネット経由で「化石の日」について知ることができた。日本古生物学会のウェブサイトによれば、以下のように説明されている。

2017年に国際古生物学協会が「国際化石の日」を10月第2週の土日として制定したことを受けて,日本古生物学会は,毎年10月15日を「化石の日」としました.

わたしの本業は、宝石の鑑別。宝石には、琥珀やマンモス象牙、アンモライトなどの、古生物由来のものもないことはない。しかしながら、実際の仕事ではほとんど見ることがない。ルビーやエメラルドなど、一般的な宝石は、マグマの成分から結晶化した鉱物が主流。生物の遺骸である化石とは根本的に異なる。でも実は、この業界に来る前には、わりと化石に接することは多かった。

地学マニア界隈だと、よく鉱物マニアと化石マニアに棲み分けができている、なんて言われることがある。わたしは今でこそ、仕事がら、鉱物の方が関心の中心になってはいるけれど、ミネラルショーでは化石もよく見ている。今の仕事をする前には、微化石と呼ばれる小さな小さな生物の化石を調べたこともあったし、建物に使われている石材から化石を探しだすイベントもやっていた。今も、化石は結構好きだ。

実は、我が家の門柱は、ひそかに知る人ぞ知る化石スポット。家を買って一年あまりしてから、外構のリフォームをした。その際、どうしてもやりたかったのが、ジュライエローの石材名で知られている、ドイツ産の石灰岩の石材を使うことだった。

この石材は、その名のとおり、中生代ジュラ紀に出来た石。その地質時代の由来になったジュラ山脈は、スイスアルプスにある。約2億年前から5000万年前には、今のヒマラヤ山脈からアルプス山脈にかけて、テチス海という海があった。その浅海でたまった堆積物が、長い年月をかけて石灰岩という岩石になった。もともとが浅海の堆積物なので、浅海に生きていた生物も化石となって見つかる。ジュライエローの石材は厳密にはジュラ山脈のものではないけれど、同時代の石灰岩が続けて分布するドイツ南部のバイエルン州のものだそうだ。バイエルン州には、ゾルンホーフェンという、始祖鳥の化石で有名な町もある。

このジュライエローという石材には、かなりの割合でアンモナイトやベレムナイト、その他サンゴや海綿の仲間の化石が含まれている。わたしがこの石材について知ったのは、以前に名古屋で仕事をしていた時に使用した、東桜会館という施設でのことだ。まさに、街中の石材から化石を探すイベントをやっていたのだけど、その最終地点が東桜会館だった。外壁にも内装にも広くこの石材が使われており、実に壮観。イベント参加者のみなさんの興奮が最高潮に達していたのをよく覚えている。

石材を注文する際、なるべく化石が多いものを希望したのだけど、業者さんはいちいち確認などしないので、当たり外れがあるとのことだった。ちなみに、石材の観点からは、化石は不純物という扱い。その不純物が少ない方が良いのだそうな。

そういうわけで、門柱に使うため、4枚のジュライエローを注文した。届いた石材は、このエントリの見出し画像に使ったもの。幸い、アンモナイトの断面やベレムナイト、ウニの化石が確認できた。中には、研磨されていない面の方にきれいな化石が出ているものもあったので、そちらを表にして使った。施工業者さんにはなかなか理解してもらえず、危うく化石が隠れてしまうところだった。

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本当は、東桜会館のように、門柱全体にジュライエローを使いたかった。しかし、門柱の強度と予算の関係で、それは叶わず。下半分にだけ使うことになった。その代わり、門柱につけるネームプレートにも化石を使うことにした。

当時まだ小学1年生だった長男と一緒に、ミネラルショーで探した、ドイツ南部のホルツマーデン産の頁岩。頁岩は泥が層状にたまって出来た堆積岩で、これにも化石がしばしば含まれる。アンモナイトのまわりに空白がある標本だったので、その空白部分にアクリル絵具で「KATSURADA」と書いた。その文字のせいか、うちに遊びに来る子供たちには、なかなか本物の化石だとは信じてもらえない。

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門柱を作ってからもう5年近くになる。ネームプレートを保護するために、ニスがけもしていたのだけれど、ずいぶん色あせてしまった。そろそろきちんと手入れしないと、せっかくの化石たちがどんどん見すぼらしくなってしまいそうだ。寒くなるまでに、せめて洗浄とニスがけぐらいはしたいと思っている。

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