高市早苗国務相は「行政文書捏造発言問題」を克服するために必要な方法は何か

3月7日(火)に総務省が公表した放送法の政治的公平性の解釈に関する行政文書を巡り、高市早苗国務大臣と野党側の対立が深まりを見せています。

総務省が公表した2014年から2015年にかけての行政文書には、当時の磯崎陽輔首相補佐官がTBSの『サンデーモーニング』の出演者の意見が偏っており、総務省に放送法の解釈の変更を迫った経緯が記載されています[1]。

これについて、高市国務相は自らが登場する文書4枚について事実ではなく捏造であると主張するとともに、「事実であれば責任を取る」と言明しました[1]。

一方、野党側は総務省が文書を行政文書と認めたことは、応分の責任をもって作成したことと同じであり、文書が捏造されたという高市氏の発言は虚偽であり、責任を取って議員を辞職すべきであると主張しています[2]。

両者の主張が対立する中で、松本剛明総務相が行政文書について「現時点で正確性が確保されてるとは言いがたい」と発言したこと[1]は、当該の行政文書が真実であり、高市総務相の発言も実際になされたものであるとしても、内容が正確に記されておらず、「は減した事実はあっても、発言の内容は事実ではない」という選択肢を与えるものです。

すなわち、一面において野党側の主張を認めるとともに、他面では文書を捏造であるとした高市国務相の発言が必ずしも不正確ではないと考える余地を残すと言えます。

これによって高市国務相は議員辞職を免れることになりますから、松本総務相は高市氏に大きな貸しを作ることになります。

こうした状況を自民党内の権力構造の側面から眺めると、どうなるでしょうか。

「正しいが正しくない」という疑惑の文書にかかわったということは、第2次安倍晋三政権時代以来、閣僚や党首脳として顕職を歴任し、総裁選にも出馬してきた高市氏にとって政治的な痛手になりかねません。

特に、高市氏の最大の後ろ盾である安倍晋三氏が昨年7月に逝去したことで失われていることを考えると、安倍氏が健在であったころはその保護下にあったことで抑えられてきた高市氏への厚遇への不満や嫉妬が、本格的に表面化することは容易に推察されます。

そして、保守層から一定の指示はあっても、疑惑の渦中にあったということで、今後は党や政府で一定の地位を維持するものの、総裁選への出馬への障壁は高くなることでしょう。

その意味で、事態を早期に収拾するとともに「捏造」という表現は不適切であり、「不正確な内容」とすべきであったと認めることは、高市氏が受ける政治的な打撃を最も小さくすると考えられます。

それだけに、高市氏の対応がどのように変化するか、今後の動向が注視されます。

[1]行政文書「捏造」「圧力」で対立. 日本経済新聞, 2023年3月9日朝刊4面.
[2]総務省の文書を巡る論点. 日本経済新聞, 2023年3月9日朝刊4面.

<Executive Summary>
Will State Minister Sanae Takaichi Be Able to Overcome the "Public Documents Issues"? (Yusuke Suzumura)

The "Public Documents Issues" of Ministry of Internal Affairs and Communications is serious problem for State Minister Sanae Takaichi, since the core of the problem is concerned with the media neutral. On this occasion, we examine a possible alternative for Minister Takaichi to overcome the issue.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?