『クラシックの迷宮』が伝える岩城宏之の歴史的功績

昨日、NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』では、2006年に逝去した指揮者の岩城宏之さんが今年9月6日で生誕90年を迎えることを記念し、「岩城宏之生誕90年~NHKのアーカイブスから~」と題して岩城さんがNHK交響楽団と録音した公演の様子をNHK所蔵の音源を利用して紹介されました。

今回取り上げられたのは以下の演奏でした。

(1)シェーンベルク/『「ヘンデルの合奏協奏曲作品6第7」による弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲』
弦楽四重奏:ジュリアード弦楽四重奏団、管弦楽:NHK交響楽団、指揮:岩城宏之
(2)バイルド/『シンフォニア・ブレヴィス』
管弦楽:NHK交響楽団、指揮:岩城宏之
(3)クセナキス/『シナファイ』
ピアノ独奏:高橋悠治、管弦楽:NHK交響楽団、指揮:岩城宏之
(4)シュトックハウゼン/『3つのオーケストラのための「グルッペン」』
管弦楽:NHK交響楽団、指揮:岩城宏之、尾高忠明、小松一彦
(5)バルトーク/バレエ音楽『中国の不思議な役人』(演奏会用組曲版)
管弦楽:NHK交響楽団、指揮:岩城宏之

「初演魔」と呼ばれるほど世界各国の作曲家の新作を初演したことは、岩城さんの様々な功績の一つです。

あるいは、『N響アワー』の司会での屈託がなく親しみやすい語り口や、『楽譜の風景』(岩波書店、1983年)や『フィルハーモニーの風景』(岩波書店、1990年)で披露する指揮者と音楽の関わり方や『森のうた』(朝日新聞社、1987年)で情感豊かに描かれる青年時代の様子など、岩城さんは交響管弦楽がより多くの人に親しみやすいものとなるよう、尽力しました。

そうした岩城さんの足跡を実際の演奏を通して振り返るのは、優れた試みです。

また、音源としてNHK交響楽団の定期公演を中心としたことは、各楽団にとって活動の基本となる公演の中で、評価の定まった作曲家や作品だけでなく、これから価値を見出される作品を聞き手の前に示そうとする岩城さんの意欲的な取り組みの一端を印象的に伝えます。

もちろん、こうした岩城さんの取り組みには存命中から批判的な意見がありましたし、現在では経営的な観点から集客に直接結び付きにくい作品が定期演奏会などで積極的に取り上げられる機会は減少の傾向を示しています。

それでも、今回の選曲は、「ベートーヴェンも活躍した当時は人々にとって同時代の音楽だった」という考えから最後まで新しい作品を公演の中で取り上げてきた岩城さんの姿を想起させるものでした。

いつもに比べて解説の時間を短縮し、その分バイルドやクセナキスの実演される機会の多くない作品の紹介を優先したのは、司会の片山杜秀先生らしい配慮の表れとなります。

その意味で、今回の放送は片山先生の本格的な「岩城宏之論」が紹介されることを期待させるつつ、岩城さんの1960年代から1970年代の旺盛な活動の一端を知るための格好の機会になったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Shows Important and Historical Achievements of Dr. Hiroyuki Iwaki (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured Dr. Hiroyuki Iwaki to celebrate the 90th Anniversary of his birth on 27th August 2022. It might be a meaningful opportunity for us to understand his efforts and achievements through records of "contemporary composers".

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