見せかけの「政治献金停止」

去る1月18日(月)、日刊ゲンダイの2021年1月19日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第84回「見せかけの「政治献金停止」」が公開されました[1]。

今回は米国の企業や大リーグ機構による政治献金停止問題の持つ意味を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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見せかけの「政治献金停止」
鈴村裕輔

ゼネラル・エレクトリック、アマゾン、マイクロソフト、グーグル、フェイスブック、コカ・コーラ、ナイキ。

米国を代表する多国籍企業は、連邦上下両院の共和党議員への政治献金を相次いで見合わせている。

今年1月6日、現職大統領ドナルド・トランプの支持者が議事堂内に侵入して警察隊と衝突し、死者が出る騒ぎに発展したことなどが主な理由だ。

民主主義の価値を体現すると思われた米国で起きた出来事の衝撃は大きく、米国内では、進入を積極的に止めなかったトランプや、選挙の結果を認めなかった共和党議員に対する非難の声が起きている。

こうした状況から、各社は政治資金の提供を取り止めたのである。この中には、大リーグ機構も含まれている。

連邦選挙委員会に登録し、個人から広く活動資金を募る政治活動委員会(PAC)は、企業が献金の原資を集めるための重要な組織だ。2019年から2020年にかけて企業が設立したPACの資金の総額は約5億3000万ドルとされ、政治資金全体の5%を占める。大リーグ機構の場合は2016年以降、PACを通じて約67万ドルを共和・民主両党の上下両院議員候補に献金してきた。

全ての企業ではないとしても、集金力のある大企業が政治献金を停止すれば、政治家たちの活動資金が枯渇しかねない。しかも、フェイスブックなどは民主党を含むすべての献金を停止している。

だが、大統領選挙と上下両院選挙が終わった2021年は政治資金の需要そのものが減少する。また、各企業も停止期間は一時的なもので、永久的な措置ではない。フェイスブックが政治献金を停止する期間も3月末までだ。

事業を円滑に運営するために不可欠である。特に種々の規制が設けられている業種の場合には各州で認可を得なければならないことが多いため、それぞれの州選出の連邦議員との関係を強化することは必須となる。

それだけに、献金の停止はトランプや共和党に対する世論の風当たりの強さを受けたその場しのぎの対策であり、事態が鎮静化すれば献金を再開することになる。

大リーグ機構も事情は同じで、2018年に最低賃金を保証する公正労働基準法からマイナー・リーグの選手の給与を対象外とすることに成功したのは、政治献金と連邦議員たちへのロビー活動のたまものであった。

何より、大リーグ機構にとって献金額は年間収入の約0.02%なのだから、機構はわずかな投資によって球団経営者たちがマイナー・リーグの選手たちにより多くの給与を支払う「損失」を回避したことになる。

機構も経営者たちも、利益を確保するための重要な方法を安易に手放すことはしないのである。
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[1]鈴村裕輔, 見せかけの「政治献金停止」. 日刊ゲンダイ, 2021年1月19日号27面.

<Executive Summary>
Stopping a Political Contribution by the MLB Is a Temporary Policy (Yusuke Suzumura)

My article titled "Stopping a Political Contribution by the MLB Is a Temporary Policy" was run at The Nikkan Gendai on 18 January 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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