東京都交響楽団の第1000回定期演奏会の開催を祝す(II)

去る6月4日(火)、東京都交響楽団が第1000回定期演奏会を挙行しました。

日本の職業交響管弦楽団の中で定期演奏会が1000回を記録するのはNHK交響楽団に続いて2団体目となり、昨日の本欄でその快事を東京都響が定期演奏会を開催するまでの過程とその後の楽団を取り巻く状況とともに祝賀しました[1]。

ところで、私が東京都響の定期演奏会を初めて鑑賞したのは1996年5月14日(火)にサントリーホールで開催された第430回でした。

「ブルックナー没後100年記念」と題された公演では、当時首席指揮者であった小泉和裕の指揮によりブルックナーの交響曲第8番(ノヴァーク版)が取り上げられました。

このときは重厚な構成を持つ作品を力強く前進させる小泉の指揮ぶりがひときわ印象的で、第4楽章を締めくくる最後の3音の濃密さが会場から幾重にも重なる拍手を呼び起こしたことは、今でも思い出される場面です。

その後1999年度から東京文化会館で開催されるAシリーズの定期会員となり、1999年9月8日(水)の若杉弘の指揮によるリヒャルト・シュトラウス没後50年記念として7つの歌劇を取り上げた第494回、やはり若杉が指揮し、武満徹の『系図-若い人たちのための音楽詩-』とブルックナーの交響曲第4番(ノヴァーク版)を演奏した第500回記念定期演奏会などを鑑賞する機会に恵まれました。

2005年4月にジェームズ・デプリーストが常任指揮者に就任すると、5月19日(木)にマーラーの交響曲第2番「復活」を取り上げて就任披露演奏会と銘打った第608回で初めてその指揮に接しました。

電動車椅子で東京文化会館の下手から登場し、坂道を設けた特製の指揮台まで滞りなく進む様子は、東京都響が出プリーストの招聘のために様々な努力を重ねたことを視覚的に力強く訴えるものでした。

細身の棒を軽やかに用いつつマーラーの時に滑稽で時に深刻な音楽を濃密に描き出す姿からは、若杉や小泉、あるいはガリー・ベルティーニなどとは異なった意味での力強さを実感したものでした。

残念ながらデプリーストが常任指揮者であった2005年4月から2008年3月までは東京都響が東京都からの補助金の削減や契約団員の増加の推進の要望を受けるなど、運営面では1967年5月の定期演奏会開始以来最も困難時機を迎えていました。

そのため、デプリーストがその幅広い持ち曲を東京都響と試し、音楽団体としてもう一回り成長する機会は十分に与えられませんでした。

それでも、2006年9月14日(木)の第631回でプロコフィエフのオラトリオ『イワン雷帝』を取り上げるなど、楽団の選曲の幅を広げたことはデプリーストの大きな功績の一つであったと言えるでしょう。

上記の公演はいずれも私にとって印象深いものながら、特に今も鮮やかに思い出されるのは、2000年2月19日(水)の第504回定期演奏会と2005年1月21日(金)の第600回定期演奏会の2つの公演です。

すなわち、第504回はフランソワ・ルルーを独奏に迎えたリヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲が、緻密で表情豊かなルルーの吹奏によってあたかも初学者向けの教則本のように容易な作品として演奏される様が実に印象的でした。

また、第600回は東京都響にとって最も大事な指揮者の一人であるジャン・フルネが小泉とともに指揮を担当した節目の回でした。

第1曲目に小泉がリヒャルト・シュトラウスの家庭交響曲を指揮した後にフルネが登場し、デュカスの舞踊詩『ラ・ペリ』の「ファンファーレ」を振ると、直前まで雄渾で壮大な音楽を奏でていた金管楽器が温和でまろやかな発音とともに上質の絹の手触りをもって演奏したのです。

この変化にフルネと東京都響の相互の理解の深さが濃縮されていると思われ、この年の12月21日(水)の第619回でフルネが指揮活動を終えたことも考え抜かれた選択であったと実感されたものでした。

残念ながら東京都響の定期会員は2010年度をもって更新を終えて現在に至っています。

それでも、折に触れてその活動には注目しており、今後も首都の楽団として一層活躍し、1500回、2000回と定期演奏会を重ねることを願う次第です。

[1]鈴村裕輔, 東京都交響楽団の第1000回定期演奏会の開催を祝す(I). 2024年6月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/93100c2f5fcdb0fda7e4bcde55f1901b?frame_id=435622 (2024年6月10日閲覧).

<Executive Summary>
Celebrating the Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra's 1000th Subscription Concert (II) (Yusuke Suzumura)

The Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra (TMSO) held the 1000th Subscription Concert, which was the 2nd case in the history among Japanese professional orchestras, on 4th June 2024. On this occasion, I examine the changes TMSO's history of subscription concert with impressive moments.

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