NHK FMの特集『カザルス変奏曲』が示した音楽と世界の重要な関係

去る8月14日(月)から17日(木)まで、NHK FMで「マエストロたちの変奏曲」の第21回『パブロ・カザルス変奏曲』が放送されました。

今回はチェロ奏者の長谷川陽子さんと音楽評論家の増田良介先生を解説者に迎え、カザルスの音楽と人となりとが4回にわたり紹介されました。

1936年にスペイン内戦が起きたことでフランシスコ・フランコ・イ・バアモンデが独裁政権を樹立したスペインでは、日常生活に様々な制約が加えられ、音楽活動も制限されるようになります。

全体主義や独裁政治に反し、自由な音楽活動や平和を求め、チェロの演奏や指揮を通して人々にスペイン、特に自らの故地であるカタルーニャ地方の現状を訴え続けたカザルスは、20世紀を代表する音楽家であるだけでなく、平和主義者。自由主義者としても時代を象徴する存在でした。

そのようなカザルスの足跡を、各種の演奏会の音源を通して確認した今回の特集は、2022年2月24日のロシアによるウクライナへの侵攻に始まる既存の国際秩序の動揺と新たな戦争の時代を迎えたかのような現在の社会を考える上でも示唆に富むものでした。

何より、演奏者としてカザルスをしのぐ技量を持つ音楽家は少なくなく、平和活動への献身的な態度でカザルスに伍して劣らない演奏家はいるとしても、いずれにおいても顕著な実績を残し、しかもその事績が現在も語り継がれるという点で、カザルスは屹立する存在です。

それだけに、協奏曲の独奏や、室内楽での演奏、マールボロ音楽祭を中心とする指揮活動、さらに来日時の公演の実況録音や市販化されていない談話などをふんだんに紹介した今回の特集は、カザルスの活動の多様さを伝える、意義深いものでした。

長谷川さんの演奏者としてのカザルスの評価と、重要な逸話をさりげなく織り交ぜた増田先生の解説とあいまって、『パブロ・カザルス変奏曲』は豊かな成果を聴取者に示したと言えるでしょう。

<Executive Summary>
NHK FM's Programme "Casals Variations" Shows the Important Meaning of Music to the World (Yusuke Suzumura)

The NHK FM's programme "Casals Variations" was broadcasted on 14th to 17th August 2023. It had the important meaning for us to understand the relationships between music and the world.

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