大リーグに重くのしかかるメキシコの麻薬問題

2019年11月11日(月)発売された日刊ゲンダイの2019年11月12日号に私が隔週で担当させていただいている連載「メジャーリーグ通信」の第57回「大リーグに重くのしかかるメキシコの麻薬問題」が掲載されました[1]。

今回は、メキシコで激しさを増している麻薬問題について、大リーグに与える影響を検討しています。。

本文を一部加筆、修正した内容をご案内しますので、ぜひご覧ください。

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大リーグに重くのしかかるメキシコの麻薬問題
鈴村裕輔

一時期影を潜めていた米国大統領ドナルド・トランプのメキシコへの批判が、高まりを見せている。

原因は現地時間の2019年11月4日(月)、メキシコ北部のチワワ州とソノラ州を結ぶ街道で起きた殺人事件だ。

犠牲となったのは自動車で移動中の米国籍の一家9人で、女性3名と子ども6名が犯罪組織とみられる集団に殺害されたのだ。

トランプは事件の背景にメキシコの麻薬組織が関与しているとし、ツイッター上でメキシコが米国の支援を受けて麻薬組織を撲滅すべきだと発言している。

メキシコに具体的な行動を促すトランプの発言の背景には、これまで何度も麻薬組織への対策を求めてきたにもかかわらず、メキシコ側の動きが迅速ではないという理由がある。

実際、メキシコ当局による麻薬組織への対策は迫力を欠く。

何故なら、2006年から6年間続いたフェリペ・カルデロン政権は軍を動員して麻薬組織の撲滅を推進したものの、組織側の反撃もあって数万人とされる死者を出し、治安の悪化を招いたからだ。

また、警察機構や中央政界にも麻薬組織から資金が提供されているとされることも、メキシコの動きを鈍くしている。

「前政権時代に大統領にわいろを渡した」、「地方警察と麻薬組織は癒着している」といった話は、映画や小説の設定ではなく、メキシコ政府で実際に起きているとされることなのだ。

だが、英国のフィナンシャル・タイムズと米国のピーター・G・ピーターソン財団が発表した米国の世論調査で、「中国やメキシコなどとの貿易戦争が米国経済にとって最大の脅威」と回答した者が27%いたことを考えると、トランプが一時は延期した経済制裁の実施を取引材料に、メキシコに具体的な麻薬組織対策を要求することもあり得る。

こうした状況は、大リーグ機構にとっても他人事ではない。

2019年の大リーグの試合に出場したメキシコ生まれの選手は15名で、米国以外で生まれた選手の数としては第5位だ。

しかし、1996年以来公式戦を断続的に開催し、市場の開拓を進めている大リーグにとって、北米圏以外で最大の日本市場も飽和状態を迎える中、順調な経済成長を遂げているメキシコは、将来性のある有望な市場である。

そのようなメキシコに対し、米国が麻薬組織対策を理由に経済制裁を行えばどうなるか。

子どもの犠牲者という米国民が特に憎む事態に至ったのだから、道義上、機構側は政府の措置に反対はしにくい。

しかも、制裁が発動されればメキシコ経済の成長が鈍化し、開拓してきた市場が崩壊することも明らかだ。

自らは管理できない他国の麻薬問題だけに、大リーグ関係者も事態の推移をもどかしく眺めるしかできないのである。
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[1]鈴村裕輔, 大リーグに重くのしかかるメキシコの麻薬問題. 日刊ゲンダイ, 2019年11月12日号27面.


<Executive Summary>
A "Mexico Drug Issue" Is a Heavy Problem for the MLB (Yusuke Suzumura)

My latest article titled "A "Mexico Drug Issue" Is a Heavy Problem for the MLB" was run at The Nikkan Gendai on 12 November 2019. Today I introduce the article to the readers of this weblog.


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