「原発処理水の海洋放出問題」の問題点は何か

本日、午後1時頃、東京電力は福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、政府の方針に基づき、基準を下回る濃度に薄めた上で海への放出を始めました[1]。

これに対し、中国は日本の水産物の輸入を全面的に禁止するとともに、韓国政府は過度の反応は禁物であると声明を出す[1]など、諸外国の対応は日本との関係を反映する形で賛否が分かれています。

一方、日本国内では、処理水について岸田文雄首相が政府として緊張感をもって対応するという談話を発表したものの、どのような対応が緊張感を持つことになるのかが不明であるという点で国民への訴求力を欠いており、「聞く力」を強調するものの「伝える力」については言及したことがない岸田首相らしい態度となっているのは、政権ウエイの面でも大きな問題と言えるでしょう。

それ以上に、処理水についてはトリチウムなどの放射性物質の濃度を所定の基準以下に薄めたうえで海への放出を行っているにもかかわらず、放射性物質を含有していることに注目が集まり、真実とは異なる情報に基づいて抗議活動が行われたり、不適切な情報が流布するという点は、懸念すべき状況です。

何故なら、このような反応は、一面において情報を提供する側の発信内容や発信力の問題であるとともに、他面においては情報を受け取る側の理解力や科学的な知識の多寡にも依存するからです。

従って、当局には何を発信したかではなく、何が受け取られたかに十分注意を払い、もし意図しない受け止められ方が確認されたなら、そうしたあり方を改善するための状況が不可欠となります。

これに加えて、情報を適切に受信する能力がありながら党利党略、個利個略によってあえて真実と異なる理解をする人たちや組織があるなら、そのような態度は、同じ条件を与えられ、同様の手法を用いれば同様の結果に辿り着くという意味での科学的な態度にもとる言わなければなりません。

そして、そのような態度による議論は、感情の面では賛同を得られるとしても、後世の検証に耐えることは難しいでしょう。

それだけに、われわれは今回の処理水の海洋放出の問題について、あくまで厳密な定義によって議論を行うことが必要なのであり、今回の措置に賛成であれ反対であれ、くれぐれも一時の感情によって議論の内容が影響を受けることがあってはなりません。

今回の一件にかかわらずあらゆる議論において重要な事柄ながら、あえて上述の内容を確認する次第です。

[1]【随時更新】原発の処理水 海への放出開始 国内外の反応は. NHK NEWS, 2023年8月24日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230824/k10014172541000.html (2023年8月24日閲覧).

<Executive Summary>
What Is an Important Attitude to Discuss the "Radioactive Wastewater Release Issues"? (Yusuke Suzumura)

Tokyo Electric Power Compnay releases radioactive wastewater from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant on 24th August 2023. On this occasion, we examine an important attitude to discuss this issue.

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