サイ・ヤング賞右腕の休職措置が示す米国社会のDVへの厳しい対応


去る8月16日(月)、日刊ゲンダイの2021年8月17日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第98回「サイ・ヤング賞右腕の休職措置が示す米国社会のDVへの厳しい対応」が掲載されました[1]。

今回は現在女性への暴行の疑惑を理由に制限リストに入れられているドジャースのトレバー・バウアー選手の事例を手掛かりに、米国社会における女性や年少者への暴力行為への対応のあり方を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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サイ・ヤング賞右腕の休職措置が示す米国社会のDVへの厳しい対応
鈴村裕輔

トレバー・バウアー(ドジャース)の休職期間が延長を重ねている。

7月2日に女性への暴行の疑惑を理由に大リーグ機構と大リーグ選手会の合意の下で制限リストに入れられたバウアーの休職期間は、当初は1週間の予定であったものの延長が繰り返されている。

機構と選手会は7月2日の時点ですでにバウアーの休職期間は弾力的に変更されることを明言している。度重なる期間の延長は声明に基づいたもので、現時点における最新の休職期間は、8月27日までとなっている。

今年2月に3年総額1億200万ドルの契約で入団し、休職期間入りの時点で8勝5敗、防御率2.59、137奪三振と投手陣の中核をなしていたバウアーの出場停止は、ドジャースにとって大きな戦力低下になる。それでもドジャースがバウアーの制限リスト入りを許容したのは、女性への暴行が理由であったからだ。

かつてのビリー・マーチンやレジー・ジャクソン、バリー・ボンズとジェフ・ケントのように、大リーグでは監督と選手や選手同士が暴力を伴う喧嘩を行うことは珍しくなかった。

また、たとえ遠巻きに眺めるだけであっても、乱闘が始まると選手だけでなくコーチや監督もダグアウトを出て加勢する格好を示さなければいけないというのも、大リーグの不文律の一つだった。

しかし、現在、機構と選手会は球界からの暴力の一掃を掲げており、2016年12月1日には選手が家族や交際相手、児童らに暴力を振るうことを禁止する「家庭内暴力、性的暴行及び児童虐待に関する共同方針」が施行されている。

こうした状況の下では、被害に遭ったとされる女性との間で係争中のバウアーは規程違反となり、ドジャースにもバウアーを擁護する余地はないのである。

何より、男性による女性への暴力や不倫が著名人の失権や政治家の失脚につながるのは、ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモの辞任表明でも明らかだ。

新型コロナウイルス感染症の拡大が急速に進んだ昨年、連日のように記者会見を行って記者団の質問に的確に答えるクオモは米国だけでなく世界中から注目され、一時は「民主党の大統領候補」とまで言われた。それでも、性的嫌がらせの疑惑が最後の一押しとなり、知事の座を去らざるを得なくなったのである。

しかも、7月末にはナショナルズのスターリン・カストロが共同方針に違反したとして30試合の出場停止となり、球団側は処分明けの解雇を表明している。

米国社会における家庭内暴力や性的嫌がらせへの対応の厳しさを考えれば、バウアーの休職は当然の措置であるし、制限解除後の処遇も予断を許さないのである。
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[1]鈴村裕輔, サイ・ヤング賞右腕の休職措置が示す米国社会のDVへの厳しい対応. 日刊ゲンダイ, 2021年8月17日号27面.

<Executive Summary>
"Trevor Bauer on the Restricted List" Shows a Severe Attitude of US Society for Domestic Violence (Yusuke Suzumura)

My article titled ""Trevor Bauer on the Restricted List" Shows a Severe Attitude of US Society for Domestic Violence" was run at The Nikkan Gendai on 16th August 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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