混迷した下院議長選挙と大リーグの労使交渉

去る1月16日(月)、日刊ゲンダイの2023年1月17日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第130回「混迷した下院議長選挙と大リーグの労使交渉」が掲載されました[1]。

今回は、2023年1月に行われた米国下院議長選挙で15回の投票を経て議長が選出されたことの意味を、大リーグにおける労使交渉の対立を参照しつつ検討しました。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


混迷した下院議長選挙と大リーグの労使交渉
鈴村裕輔

新たに招集された米国連邦下院では、歴史的な出来事が起きた。議長の選出が1回で終わらず、15回目で共和党下院院内総務のケビン・マッカーシーが当選したのである。

昨年11月の連邦中間選挙で下院の多数派となったのが共和党である。そして、その下院共和党の代表者がマッカーシーなのだから、順当に行けば第1回目の投票ですべてが決まるはずだった。

しかし、共和党内の最強硬派がマッカーシーを妥協的すぎると批判したことで事態は紛糾し、1923年以来の複数回の投票となったばかりでなく、最終的に1860年代以降では最多の15回に及ぶ投票が行われることになった。

1859年には44回目の投票で議長が選出された事例があったとはいえ、100年ぶりに1回の投票ですべてが決まらなかった点に、現在の共和党内の混迷のほどがうかがわれる。

何より、造反した議員の多くが、依然として共和党に強い影響力を持っている前大統領のドナルド・トランプの系列に属する議員だった。それだけに、2024年の大統領選挙への出馬を目指すトランプにとっても、今回は自らの威信が傷つけられる結果となった。

こうした状況が生じた一因は、今回の中間選挙で共和党の勢力が思ったほど伸張しなかった責任をマッカーシーに求める声にある。それとともに、党内主流派と距離を置き、民主党との超党派的な提携を徹底して否定する強硬な態度を示せば、それだけ支持基盤を固められるという現在の米国政界の構造がある。

一方、スポーツ界でも、しばしば鋭く対立する意見が交わされる。むしろ、2年後の選挙が焦点となる下院議員と異なり、一つの判断が明日の経営に影響を与えるスポーツ界では、選手も経営者も自らの説を強硬に主張しがちだ。

大リーグを例にとれば、ストライキは労使双方の意見の対立の深刻さを示す象徴的な出来事となる。

2021年から2022年にかけてのストライキも、ぜいたく税の対象となる年俸総額の上限を巡り、引き上げを要求する選手会と据え置きないし引き下げを主張する経営陣の決裂の結果であった。

しかし、大リーグにとっての最大の商品である試合が行われなければ、球団も選手もたちまち行き詰まる。そのため、ストライキが終わればそれまでの対立などなかったかのようにシーズンが始まり、オーナーと選手が談笑する姿がSNSに投稿される。

一度結ばれた労使協定は5年間有効だという期間の問題を考慮するとしても、徹底して対立し、しかも対立が解消されれば全てが日常に戻るという大リーグのあり方は、「恥ずかしい」と延々と続く下院議長選挙を批判した大統領のバイデンの一言をまつまでもなく、下院議員たちが学ぶべきものかもしれない。


[1]鈴村裕輔, 混迷した下院議長選挙と大リーグの労使交渉. 日刊ゲンダイ, 2023年1月17日号27面.

<Executive Summary>
The 2023 Speaker of the United States House of Representatives Election and the MLB (Yusuke Suzumura)

My article titled "The 2023 Speaker of the United States House of Representatives Election and the MLB" was run at The Nikkan Gendai on 17th January 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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