「新大学生に勧めたい10冊」の紹介

去る3月11日(水)、今春に大学生となる皆さんを念頭に置き、「新大学生に勧めたい10冊」をご紹介しました[1]。

その際に選んだのは、私が法政大学文学部哲学科に在籍していた1996年4月から2000年3月までの間に購入し、今も折に触れて参照している書籍でした。

そこで、今回、それぞれの書籍を選んだ簡単な理由を追記し、以下に選定した10冊を出版された順にご紹介いたします。

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(1)アンリ・ポアンカレ(吉田洋一訳)『改訳 科学と仮説』(岩波書店、1953年)
大学1年生の時に法政大学58年館の地下1階にあった大学生協の書籍部で目にし、購入しました。最初は数学者で物理学者のアンリ・ポアンカレではなく、政治家のレイモン・ポアンカレの著作と思って手にしたのですが、この邂逅を通して、仮説の重要性を説く本書を知ることが出来たのは実にありがたいことでした。

(2)藤田五郎『ドイツ語のすすめ』(講談社、1964年)
東京都立青山高等学校の2年生の時に、大町陽一郎の『クラシック音楽のすすめ』(講談社、1965年)の既刊本紹介の欄で目にして以来気になっていた一冊で、大学1年生の時に購入しました。漫談調の軽快な筆致によって、ドイツ語を学ぶことの難しさと楽しさを実感することが出来ました。

(3)フョードル・ドストエフスキー(江川卓訳)『悪霊』全2巻(新潮社、1971年)
大学2年生の1997年に、自宅の最寄り駅にある八雲堂書店2階の文庫本の棚で見付けて買い求めました。執筆された1870年代初頭のロシアの世相を反映した虚無主義的な雰囲気の陰に漂う、登場人物たちの内省が示す生への執着と憧憬が、『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』とは異なる重厚さを生み出していることが印象深く思われました。

(4)白川静『漢字百話』(中央公論社、1978年)
大学2年生の時に履修した、市川宏先生が担当された教養科目「漢字・漢文学」の教科書として購入しました。漢字の呪術性、祭儀性、あるいは官能性が甲骨文や金文の解釈を通して実証的に示されている本書は白川漢字学の入門書としてだけでなく、漢字の持つ多様な機能を知るためにも最適な1冊でした。

(5)ウィンストン・チャーチル(佐藤亮一訳)『第二次世界大戦』全4巻(河出書房新社、1980年)
東京都立青山高等学校の3年生の際に図書室で借りて読んだのが最初で、大学3年生の1998年に全巻を買い揃えました。政治家としてだけでなく文章家としても一流であったチャーチルの代表作である本書は、第二次世界大戦のあり様の一端を知るのにふさわしいだけでなく、政治家としてのチャーチルの冷酷さをも示すものです。

(6)ティオゲネス・ラエルティオス(加来彰俊訳)『ギリシア哲学者列伝』全3巻(岩波書店、1984-1994年)
大学1年生の時の必修科目であった「西洋哲学史I」の講義の中で、担当されていた川田親之先生が参考文献として挙げられ、購入しました。加来彰俊先生の滑らかな翻訳と詳細な註を通して古代ギリシアの哲学者たちの学説の概要を知り得たことは、ギリシア哲学を専門としない私にとって重要な機会となりました。

(7)風間喜代三『ことばの生活誌』(平凡社、1987年)
大学1年生の時に教養科目「言語学」の講義を担当された風間喜代三先生が、シラバスの中で主著として『ことばの身体誌』(平凡社、1990年)とともに挙げられていたため、1996年4月に購入しました。2冊とも比較文法家としての風間先生の丹念な研究の成果に溢れているものの、日常生活における言語の歴史性を強く描き出す本書は、より印象的でした。

(8)Umberto Eco (translated by William Weaver). The Island of the Day Before (London: Vintage Books, 1996).
大学4年間を通して行っていた「帰宅時の電車では英文の書籍を読む」という取り組みの一環として、1997年に神保町の北沢書店で購入しました。エーコの本を読んだのはThe Name of the Roseに続いて2冊目で、表紙の装丁の美しさもさることながら、哲学的な深遠さと物語としての筋立の難解さとが、いかにもエーコらしいと思われたものでした。

(9)ヨーゼフ・クライナー『ケンペルのみた日本』(NHK出版、1996年)
大学2年生の1997年に、大学生協の購買部で見かけて購入しました。ケンペルが17世紀末の日本の姿を克明に記録していたこと、さらにケンペルの『日本誌』が18世紀のヨーロッパの日本観に大きな影響を与えたことを知る貴重な1冊でした。購入時には、やがて著者であるクライナー先生の薫陶を受ける機会に恵まれるとは思いもよらないのでした。

(10)Oscar Wilde (edited by Norman Page). The Picture of Dorian Gray. (Ontario: Broadview Press, 1998).
大学4年生の1999年の時に、「帰宅時に読む1冊」として北沢書店で購入しました。ページを読み進めるたびに高まる緊張感と一種の猟奇性は原文ならではと実感したものです。それとともに、劇的な結末にワイルドの作家としての力量とある種の危うさを実感したものでした。
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これらの本は私の限られた経験に基づいて選んでいるため、自ずから偏りや不十分さはあることでしょう。

それでも、新たに大学生となる皆さん、あるいは現在大学生の皆さんの読書にとって何か役に立てばと思うところです。

[1]Yusuke Suzumura/鈴村裕輔. "私が学部生であった時に購入した本で、今も折に触れて参照している書籍の中から、#新大学生に勧めたい10冊 を、出版された年の順にご紹介したいと思います。". 2020年3月11日, 11時38分, https://twitter.com/yusuke_suzumura/status/1237568666662621185 (2020年3月18日).

<Executive Summary>
The Ten Recommended Books for the First-Year University Students (Yusuke Suzumura)

April is a season of the start of a new academic year in Japan. On this occasion I selected ten recommended books for the first-year university students including Eco's The Island of the Day Before and Wilde's The Picture of Dorian Gray.

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