『カール・ベーム変奏曲』が示した「われわれの時代の指揮者」としてのベームの姿

去る8月12日(火)から16日(金)まで、4日間にわたりNHK FMで特集『カール・ベーム変奏曲』が放送されました。

今回は今年8月28日に生誕130年を迎える指揮者のカール・ベームを取り上げ、その音楽に対する臨み方、一時代を画する指揮者になる原点としての歌劇との関わり方、4回にわたる来日公演で日本の聴衆を魅了した背景、そして生涯現役であり続けた軌跡などが紹介されました。

司会は東涼子さん、解説は指揮者の下野竜也さんと音楽評論家の増田良介先生でした。

第1日目ではヘッセンやドレスデンとの録音やチャイコフスキーの交響曲第4番など、カール・ベームの初期の録音からベームにとっては傍流の作品、さらには親交の深かったベルクの歌劇『ヴォツェック』などが取り上げられ、その音楽性が活き活きと描き出されました。

オペラ指揮者としてのベームの功績に焦点が当てられた第2日目は、ドレスデン国立歌劇場との録音を中心とした選曲はベームの伸びやかな音楽作りを実感するのに好適な内容でした。

また、第3日目はカール・ベームの来日公演時の録音が取り上げられ、1963年のベルリン・ドイツ・オペラの引越し公演が日本の歌劇史に果たした影響を吉田秀和先生の指摘を参照しつつ紹介するなど、ひときわ教育的価値の高い回となりました。

そして、第4日目はベームの晩年の録音が紹介され、最後まで第一線で活躍したその音楽活動の充実ぶりを振り返るために格好の機会となりました。

第4日目の終わりに際し、司会の東涼子さんが「今回はカール・ベームの音楽をより多く知っていただこうと様々な音源を紹介したので、まとまった演奏を取り上げらることができませんでした」と構成や選曲について聴取者に理解を求める一言を添えられたものの、実際には今回の内容が番組の魅力を損なうことはありませんでした。

一方、下野竜也さんが「ベームの指揮を最初に見たころは曲がった棒を持ったおじいさんという印象だったが、指揮者を目指すようになってから改めて映像を見ると音楽の核心を押さえた指揮をしていることが分かり、その素晴らしさに感銘を受けた」「今は忘れられつつある指揮者かも知れないものの、クラシック音楽に携わる者としてその足跡を後世に伝えたい」と話される様子は大変印象的でした。

また、増田良介先生の音楽への向き合い方から私生活に至るまで丁寧な解説は、ベームの一人の人間としての姿をより鮮やかに描き出すものでした。

あるいは、下野竜也さんと増田良介先生が指揮と音楽史の観点からベームの特長を位置付けるのも、聞き応えのある試みでした。

今回の放送で取り上げられた音源の多くが私の手元にあることも含め、ベームが「われわれの時代の指揮者」であることを改めて確認することが出来た、意義深い特集となりました。

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of a Radio Programme "Variations of Karl Böhm" (Yusuke Suzumura)

NHK FM broadcast a featured programme "Variations of Karl Böhm" from 13th to 16th August 2024. On this occasion, I express my miscellaneous impressions on the programme.

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