「人事を通した政治による検察への介入」は「検察官定年延長問題」の核心をなすか

現在社会的な関心を集めている検察庁法の変更を巡る問題は、「人事を通した政治による検察への介入」の是非についての問題ということになるでしょう。

それでは、「人事を通した政治による検察への介入」は、何故問題となるのでしょうか。

周知の通り、日本においては、立法、司法、行政の三件が相互に牽制する、三権分立が制度として確立されています。このうち、司法権を担うのは、もっぱら裁判官制度になります。

そして、裁判官制度によって担われている司法権が発動されるためには「具体的な争訟事件が提起されることを必要とする」[1]とされており、刑事訴追については検察官が独占的に担っています。

一方、法務大臣は検察庁法の定めにより、全国全ての検察庁の職員を指揮・監督する検事総長に対し、個々の事件の取調又は処分について指揮することができます[2]。

そのため、もし検察庁法が改められて「政権寄り」の人物が検事総長になる場合、個別の案件について法相を通した指揮権の発動がなされ、本来であれば訴追されるべき事案が不起訴になる、あるいはその反対に起訴に値しない案件が起訴されるといった事態が生じ、司法権が適切に行使されない可能性が高まります。

もちろん、検察官の訴追裁量権には、限界があることが認められています[3]。従って、仮に「政権寄り」の人物が検事総長になったとしても、ただちに「政治による検察への介入」が生じることはないかも知れません。

しかしながら、検察官が一翼を担う司法制度について、適正に運用されているか否かを人々が疑問視することが好ましいものではないことは、「検察権の行使は常に一党一派に偏することなく厳正中立であって、いささかもそれが疑われるようなことがあってはならない」[4]と指摘される通りです。

それだけに、今回の問題は、「人事を通した政治による検察への介入」といった表面的な事柄に留まらず、司法制度そのものへの信頼に関わる事項であると言えるのです。

[1]最高裁判所民事判例集. 第6巻9号, 783頁.
[2]検察庁法. 第十四条.
[3]最高裁判所刑事判例集. 第34巻7号, 672頁.
[4]河合信太郎, 検察讀本. 商事法務研究会, 1979年, 3頁.

<Executive Summary>
Why Is The Public Prosecutor's Office Act and the "Mandatory Retirement Age Issue" Problematic? (Yusuke Suzumura)

The Abe Administration aims to revise The Public Prosecutor's Office Act in which the mandatory retirement age is set prosecutors at 63 and that for the prosecutor-general, Japan's top prosecutor, at 65. On this occasion we examine what is a core problem of the issue.

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