大谷翔平選手の「100本塁打500奪三振記録樹立」はいかなる意味を持つか

現地時間の5月9日(火)、大リーグのロサンゼルス・エンゼルスに所属する大谷翔平選手がヒューストン・アストロズとの試合に登板し、13奪三振を記録しました。

この結果、大谷選手の大リーグでの通算奪三振数は507個となり、大リーグの公式見解によれば、通算501奪三振を残したベーブ・ルースを抜き、100本塁打以上を記録した選手として歴代最多の奪三振記録を樹立しました。

大リーグの歴史上、100本塁打もしくは500奪三振のいずれかを記録した選手はいたものの、二つの項目を同時に満たしたのはルースだけであったため、大谷選手は史上2人目の「100本塁打500奪三振」を達成したことになります。

もとより、大リーグでは3000本安打や300勝を記録すれば野球殿堂入りが確実であるとか、「500本塁打クラブ」などがあるように、一定の成績についてはしばしば重要な意味を持ちます。

大谷選手の場合は昨年打者としては規定打席を、投手としては規定投球回数を達成するいわゆる「W規定」が話題となりました。

一方で、今回の「100本塁打500奪三振」は設定する基準のいかんによって評価が変わるものであるため、公式規則で定められた基準を満たした「W規定」とは異なる性格を持つことになります。

このように考えれば、「100本塁打500奪三振」は様々な評価の尺度の一つにすぎず、絶対的な価値を有するものではないということになるでしょう。

それとともに、ルースが投打のいずれでも活躍した1910年代においては同様の事例は少なくなかったものの、その後の野球の技術的、質的な進歩によって打者と投手の分化が決定的となったことが、大学野球までは珍しくない投打のいずれでも活躍する選手が大リーグにおいてはほとんど途絶するという結果をもたらしたことには注意が必要です。

すなわち、大谷選手が投打のいずれでも活躍するのは、現在の大リーグにおいては大谷選手だからこそ実現できることであり、類似の事例を求めれば自ずからルースまでさかのぼらなければならないために、絶えず両者が比較されるのです。

そのため、大谷選手が活躍するたびにルースが対象として参照されることになります。

こうした状況は、100年以上の間に飛躍的に進歩した野球のあり方を等閑視して、時代の面でも技術や戦略ないし戦術の面でも異なる二つの要素を本来比較の対象ではないルースと大谷選手によって見比べているといえるかもしれません。

しかし、優れた競技者は過去の歴史を蘇らせ、新たな歴史を作り出すという考えに従えば、人気の基準による新旧の記録の保持者が比較されるのは当然のことです。

そして、こうした比較によって、はじめて投打の分化が進展した現在の大リーグにおいて、大谷選手がどれほど傑出した存在であるかが定量的に把握されるのです。

その意味で、大谷選手は改めてわれわれに数字の配列に過ぎない記録から、いかにして新たな意味を見出すかという試みの深奥さと妙味を教えていると言えるでしょう・

これからも、大谷選手がどのような基準による「新記録」を樹立するか、注目されます。

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Mr. Shohei Ohtani's New "100 HR and 500 K" Record? (Yusuke Suzumura)

Mr. Shohei Ohtani of the Los Angeles Angels recorded 100 homeruns and 500 strikeouts on 9th May 2023 and passed the record reached by Babe Ruth. On this occasion, we examine a meaning of Mr. Ohtani's new record, the "100 HR and 500 K", based on an anaysis of baseball record.

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