入場者減でも大型契約続出の内幕

2022年12月19日(月)、日刊ゲンダイの2022年12月20日号24面に連載「メジャーリーグ通信」の第129回「入場者減でも大型契約続出の内幕」が掲載されました[1]。

今回は、「コロナ禍」の影響による入場者の減少に直面しつながらも選手と大型契約を結ぶ現在の大リーグの状況について、球団の経営の側面から背景を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


入場者減でも大型契約続出の内幕
鈴村裕輔

大リーグの第9代コミッショナーであったアラン・セリグが「皆さんは野球の黄金時代にいる」と指摘したのは、2004年のオールスター戦での出来事だった。

この年、大リーグ30球団の年俸の総額は約20億7千万ドルであり、選手1人当たりの平均額は約230万ドルだった。

一方、2022年は年俸総額が約42億ドル、平均年俸も約430万ドルであり、前者は約2倍、後者も約1.9倍に増加している。

平均年俸は2020年に記録した過去最高の約472万ドルに及ばないとはいえ、2022年は「黄金時代」をはるかにしのぐ年俸が支払われたことが分かる。

しかも、2022年のウィンター・ミーティングでは大型契約が次々と実現した。

これらは、いずれも2023年も年俸総額と平均年俸がさらに金額が増えることを予想させる。

確かに、機構の最高収益責任者であるノア・ガーデンは今季の球界の収益は100億ドルを超え、コロナ禍以前の水準に戻ると指摘する。

だが、実際には、今季の観客数は約6455万人と、約7940万人を記録した2007年の約8割の水準に留まり、1997年の約6300万人と同程度となっている。

1997年の場合は、翌年に世界のプロスポーツ史上初となる年間観客動員数7000万人台の大台を記録しており、いわば上昇基調のある数字であった。しかし、昨年はコロナ禍からの回復の過程にあるとはいえ、2023年に7000万人台に達するだけの勢いはない。

それにもかかわらず収益が回復し、年俸も上昇の傾向を示しているのだろうか。

各球団は毎年のように入場料を改定しているとはいえ、観客数の減少を客席の単価を引き上げで埋め合わせる手法には、限界がある。

球界の好況の最大の理由は、放映権料だ。

機構は従来のFOXに加え、Apple TVやNBC系列のピーコックとオンライン配信とも新たに契約を結んでおり、2022年だけで放映権収入の合計は19億6000万ドルになる。これが30球団に配分されるのだから、各球団は年俸の原資として安定した財源を持っていることになる。

さらに、いわゆる米国の四大スポーツのチーム数は合計で122であるのに対し、球団を保有したいという需要を満たすことは容易ではない。大リーグの場合も需給関係では所有者が有利な状況にあり、雑誌『フォーブス』が発表する球団の価値は毎年上昇している。

そのため、現在の所有者は将来購入時よりも高額で球団を売却することを見越して、選手との大型契約を積極的に進めやすい。

しばしば用いられる「オーナー、私財を投じて選手を補強」という表現は、資金の回収までを視野に入れた、球団所有者たちのしたたかな態度を示す、経営的側面の強いものなのである。


[1]鈴村裕輔, 入場者減でも大型契約続出の内幕. 日刊ゲンダイ, 2022年12月20日号24面.

<Executive Summary>
Falling Attendance, Increasing Annual Salary, the MLB Way (Yusuke Suzumura)

My article titled "Falling Attendance, Increasing Annual Salary, the MLB Way" was run at The Nikkan Gendai on 20th December 2022. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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