旧弊からの脱却の難しさを示した第74回NHK紅白歌合戦

2023年12月31日(日)に放送された第74回NHK紅白歌合戦は、関東地区における総合テレビの平均視聴率が、第1部で29.0%、第2部が31.9%となり、前年比で第1部が2.2ポイント、第2部が3.4ポイント減少し、いずれも2部制となった1989年以降で最低の数値を記録しました[1]。

一昨年と同様に、視聴率の回復のためにTikTokでの再生回数の多い歌手を起用したものの、今回も顕著な効果を発揮しなかったことは、視聴率が示す通りです。

その理由は、TikTokを利用する人が紅白歌合戦そのものに興味を持つとは限らず、また紅白歌合戦の主たる視聴者がTikTokを頻繁に利用しているとは限らないという点に求められます。

すなわち、制作者側が視聴者の行動を適切に把握しきれていない結果が、需要と異なる内容を供給しているという現状に繋がっていると言えるのです。

また、「ボーダレス 超えてつながる大みそか」という標語を掲げたものの、実際に出場した歌手の分野の構成や特別企画は旧態依然としたものであり、「何がボーダレスなのか」「何が超えてつながるなのか」という基本的な点を視聴者に伝えるには訴求力を欠いたままでした。

さらに、歌唱の内容と関係のない演出を行うなど、従来からの悪弊が改善されないところは、番組の価値だけでなく品位をも損なうものと言わねばならないでしょう。

むしろ、過剰な演出を行わず、本来十分な実力を持つはずの歌手たちがその年に多くの聴衆の支持を獲得したり自信を持っていたりする作品を本来の持ち味の通りに歌唱する機会を設ける方が、視聴者にとってはより有益な機会となります。

それだけに、今や放送することそのものが目的となっているNHK紅白歌合戦の制作者には、番組の本来の趣旨が何であるかを見直し、よりよい番組作りに励むことが期待されます。

[1]紅白視聴率最低. 読売新聞, 2024年1月3日朝刊34面.

<Executive Summary>
The 74th NHK Kohaku Utagassen Shall Were Still Entangled with the Evil Habits (Yusuke Suzumura)

The 74th NHK Kohaku Utagassen, Red and White Singing Contest, was held on 31st December 2023. They showed that they were entangled with the evil habits, an excessive staging.

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