論文"Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour"の草稿のご紹介(6)

昨年12月、ロバート・フィッツ、ビル・ナウリン、ジェームズ・フォーの各氏の編纂した書籍"Nichibei Yakyu: US Tours of Japan"の第1巻がアメリカ野球学会(SABR)から刊行され、私も論文"Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour"を寄稿しました。

今回は、論文の日本語版草稿のご紹介の第6回目となります


ところで、来日時のスタンフォード大学野球部に対する日本側の評価は好意的であった。

例えば、東京朝日新聞は「平和の神の使者にも似たジョルダン博士の徳化を受けた彼らは、見るからにこの上ない若い紳士ばかりで、しかも米国風に初対面から打ち解けて快活な様子」[20]としている。

ここで言及されている「ジョルダン博士」は1891年にスタンフォード大学の初代学長となり、1913年にやはり同大学の初代総長に就任したデヴィッド・スター・ジョーダンを指す。ジョーダンは自らの専門である魚類の調査のため、1900年以来たびたび日本を訪問していた[21]。

また、ジョーダンは研究者、大学経営者であるとともに反帝国主義者、反戦主義者としても活動していた。日本におけるジョーダンの評価は、魚類学者、教育者というよりも、当時の日米間の最大の懸案事項であった米国内での日本移民排斥の動きに反対し、「いかなる議会も日本人排斥法案を通過させてはならない」[22]と主張する親日家であり、「平和を愛し、平和を世界の真理」と確信する「平和の大選手」[23]であった。

このように、日本で高く評価されていたジョーダンが学長、総長として率いたスタンフォード大学だけに、野球部選手たちもジョーダンに感化された紳士として描かれているのである。

また、一行の中で特徴的な選手を次のように取り上げている。

▲内股と豆好き 一行の中で変わり者はカーツ選手で、大変内股のため仲間から色々と冷やかされているそうだ。彼は東京に着いたら内股の車夫を雇いたいと新聞に広告を出すなどと言って皆を笑わせた。また、アーガブライト選手は実家が豆屋で、本人も非常な豆好きなので、「豆」というあだ名を与えられている。オークマン選手は大変な臆病者で、船中では救命ボートを離れることはなかった。[24]

体形や家業などは野球そのものとは関係ない。しかし、こうした話題は選手の人となりを知るための格好の材料でもある。そのため、たとえ興味本位であるとしても、選手の人柄を伝える話題が掲載されたという事実そのものに、スタンフォード大学野球部に対する人々の関心の高さが示されていた。

[20] 「ス大選手来る」『東京朝日新聞』、1913年5月28日5面。
[21] See Koichi Shibukawa (2017): The Fishes of Shizuoka: A History of Fish- Fauna Research and Some Future Perspectives. In Yoshinori Yasuda and Mark J. Hudson, eds. (2017): Multidisciplinary Studies of the Environment and Civilization: Japanese Perspectives. New York: Routledge.
[22] 「ジョルダン博士の日本人問題観」『読売新聞』、1907年2月8日2面。
[23] 「平和の大選手来る」『東京朝日新聞』、1911年8月27日5面。
[24] 「必勝を揚言す」『読売新聞』、1913年5月28日3面。


<Executive Summary>
Draft of Artcile: Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour (VI) (Yusuke Suzumura)

My article "Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour" is run on Nichibe Yakyu edited by Robert K. Fitts, Bill Nowlin, and James Forr published in December 2022. On this occasion, I introduce the Japanese draft to the readers of the weblog.

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