第73回NHK紅白歌合戦が示した番組の魅力の回復への手掛かり

2022年12月31日(土)に放送された第73回NHK紅白歌合戦は、関東地区における総合テレビの平均視聴率が、第1部で31.2%、第2部が35.3%でした[1]。

番組の制作者にとって第2部の関東地区の視聴率が1989年の2部制導入以降で過去最低を記録した一昨年からの挽回が唯一の課題であったことは、例年以上にTikTokの再生回数に言及される場面が増えたという事実が示唆するところです。

すなわち、TikTokでの再生回数が多いことを強調することで、一面において紅白歌合戦の出場者がより多くの人たちから支持されていることを示すとともに、他面ではTikTokの利用者を番組の視聴に誘導しようとするというのが、制作者側の意図であったと推察されます。

これは、各種の動画配信サービスが定着し、テレビ番組を視聴する環境が変化した昨今の状況を考えれば、一定の妥当性を持つ戦略と言えるでしょう。

しかし、この戦略はTikTokの利用者がテレビを視聴する習慣がある、あるいはTikTokに言及することで視聴の意欲が喚起されるという前提に立つ場合のみ有効な手法であり、テレビの視聴が習慣化されていない、もしくはTikTokの再生回数が取り上げられてもあえて視聴しようと思わない層には訴求力を欠くことになります。

実際、第2部の視聴率が昨年に続き過去2番目の低さであったことは、制作者側の戦略が必ずしも有効に機能していなかったことを示します。

むしろ、演歌歌手の出番にアイドル歌手などを共演させたり特別出演の団体を起用するといった演出が依然として行われていることは、改善すべき事項が依然として放置されていることを意味するものです。

また、やはり番組の中盤で進行とは関係のない演出を行うことは、制作者側の「視聴率稼ぎ」の方法がある種の手詰まりの状態にあることを示していました。

一方で、昨年末をもってコンサート活動からの引退を表明していた加山雄三が最後の舞台として登場し、「音楽っていいな」と感慨深く心情を吐露したことは、今回の放送のみならず、紅白歌合戦という番組の歴史の上でも屈指の見どころとなりました。

それだけに、今回の紅白歌合戦はテレビ番組を取り巻く環境の変化への対応が容易ではなく、むしろ番組本来の魅力を強調する方が視聴率の回復とともに番組の品位の向上にも繋がることを示したと言えるでしょう。

[1]NHK総合「紅白歌合戦」. ビデオリサーチ, 2023年1月2日, https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/music/02/nhk-2.html (2023年1月3日閲覧).

<Executive Summary>
The 73rd NHK Kohaku Utagassen Showed a Path to Improve Its Attractiveness (Yusuke Suzumura)

The 73rd NHK Kohaku Utagassen, Red and White Singing Contest, was held on 31st December 2022. They showed a path to improve the programme's attractiveness.

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