『クラシックの迷宮』がヨアヒム・ラフに当てる新たな光

去る6月4日(土)、NHK FMの『クラシックの迷宮』では「ラフから見渡すロマン派音楽~ヨアヒム・ラフ 生誕200年~」と題し、今年生誕200年を迎えたスイスの作曲家ヨアヒム・ラフを特集しました。

教師の傍ら演奏活動を行っていたラフがリストの助手となり、やがて独立して作曲家、教育者として名声を博する過程を丹念に紹介しつつ、具体的な作品を通してその芸術の特徴を描き出すのは、司会の片山杜秀先生のいつもながらの手腕がいかんなく発揮されていました。

特に、リストから独立したラフが活動の拠点をワイマールからヴィースバーデンに移した点に着目したのは、重要でした。

周知のとおり、ワイマールは19世紀半ばにおいてはリストやワーグナーら「新ドイツ派」と呼ばれた作曲家たちが多く集まった土地でした。

リストの助手であったラフも当然ながら「新ドイツ派」の一人に数えられたものの、ヴィースバーデンを新たな活動の場としたことは、単にワイマールの南西約275キロの土地に移動しただけでなく、独立にあわせて「新ドイツ派」からの自立をも宣言したことに他なりませんでした。

実際、フランクフルトに移る1877年までの約20年間に8つの交響曲を含む多くの作品を生み出し、独自の音楽の体系を築いたのですから、片山先生が「ワイマール期」、「ヴィースバーデン期」、「フランクフルト期」のそれぞれの代表作を取り上げたのは、ラフの創作活動の内実を知る上でも不可欠な手続きでした。

何より、近年録音が進み、多くの作品が紹介されるようになったとはいえ、依然としてその名が人口に膾炙しない「埋もれた作曲家」の一人であるラフを特集したことそのものの価値は大きく、今後日本でラフの作品を取り上げる公演が増えるなら、片山先生の果たす役割は決して小さくないと言えるでしょう。

いつもながらに、着眼点の鋭さと意義深さが実感された、今回の『クラシックの迷宮』でした。

<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Sheds Light on Joachim Raff and His Musical Art (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured Joachim Raff on 4th June 2022. It might be a meaningful opportunity for us to understand multiple characteristics of Raff and his musical art.

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