安倍晋三氏の逝去から1年を経て考える「派閥の長としての安倍氏」の姿

去る7月8日(土)、安倍晋三元首相の逝去から1年が経ったことを受け、増上寺(東京都港区)において一周忌法要が営まれました[1]。

法要には安倍首相の夫人である安倍昭恵氏や岸田文雄首相、安倍派の国会議員などが参列したほか、一般献花にも多くの人たちが訪れました。

首相として日本の憲政史上最長の在任期間を記録し、退任後も現職の国会議員として活躍していた安倍氏が銃撃により逝去するとはだれにも予想できなかっただけに、1年後の現在も安倍氏の死が日本の政界の重要な話題の一つであることは当然と言えるでしょう。

また、本来は政治上の理念や政策の方針が異なる岸田首相にとっても、安倍氏を支持した保守派の歓心を買うために法要後の偲ぶ会において安倍氏の功績を改めて讃えたことも、現実的な対応です。

むしろ、保守派と見られながら進歩的な政策を導入することで反対派との対立点を曖昧にしたり、改憲に積極的であると思世話つつ実際には広範な層の合意が難しい問題を提起することで実際には憲法改正問題を先送りにしつつ保守派の支持を繋ぎ止めるといった柔軟な姿勢は、長期政権に意欲を見せる岸田首相にとって大いに参考にすべきものと言えるでしょう。

一方で、一周忌を迎えても安倍氏の後継者を決められず、集団指導体制のままである安倍派の状況からは、安倍氏の派閥運営のあり方がその突然の死によって弊害として表れたことを示します。

すなわち、派内に有力な後継者候補を作らず、将来の後継者候補と目される複数の人物を競い合わせることで自らの求心力を維持するとともに、これらの人物が閣内や党内の要職を占めて互いに競い合うことで派が活性化するというあり方は、安倍氏が健在の頃は自民党の最大派閥である安倍派の力の源泉の一つでもありました。

しかし、安倍氏の逝去後は、残されたのが閥務には一定の能力を有していても一派を率いるだけの資金力がなかったり、党幹部や閣僚を歴任してはいるものの国民的な知名度に欠けるといった、派閥の長としての資格を欠く人物ばかりであったことが、現在まで続く集団指導体制を招くことになりました。

このままでは、来年9月の総裁選に派から統一の候補を擁立できず、それぞれの支持者が集まることで安倍派が分裂する可能性も否定できません。

従って、派閥の安定した運営という観点から見れば、絶大な存在感をもっていた安倍氏は、その権勢を維持しようとしてかえって派の分裂の危機を招くことになったと考えられます。

それだけに、今後、安倍派の指導体制がどのようになるのか、あるいは安倍派はいつまで結束を維持できるかという点は、大きな注目点になると言えるでしょう。

[1]安倍元首相銃撃1年 都内で法要、献花に列. 日本経済新聞, 2023年7月9日朝刊1面.

<Executive Summary>
Who Will Be the Next Leader of the Abe Faction of the Liberal Democratic Party (Yusuke Suzumura)

The 8th July, 2023 was the 1st Year of the Memorial Day of the Death of Former Prime Minister Shinzo Abe. On this occasion we examine the meaning of his death and its impcat to the Japanese political scene.

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