【評伝】ピート・ローズ氏--栄光と追放の35年

現地時間の9月30日(月)、大リーグの歴代最多安打記録を持つピート・ローズ氏が逝去しました。享年83歳でした。

1963年から1986年まで大リーグに24季在籍して23年連続100安打以上を記録し、200安打以上も10回達成するとともに、一塁、二塁、三塁、右翼、左翼の5つの守備位置でそれぞれ500試合以上に出場するなど、いくつもの史上唯一の記録を保持する選手です。

1970年年代に在籍したシンシナティ・レッズはビッグ・レッド・マシーンと称された強力な打線によって1975年と1976年のワールド・シリーズを連破しています。

この強豪球団を牽引したのがローズ氏で、そこにジョニー・ベンチやトニー・ぺレス、ジョージ・フォスターら球界屈指の強打が揃い、相手球団を圧倒したものです。

スポーツ専門誌の『スポーツ・イラストレイテッド』がローズ氏を「1970年代の選手」に選んだのも当然のことであり、史上最年少での通算3000本安打の達成や、出場試合3562、通算打席15861、通算打数14053、通算安打4256など、歴代最多記録は今も球史に燦然と輝くものです。

一方、フィラデルフィア・フィリーズ、モントリオール・エクスポズを経てレッズの選手兼任監督となった1984年から、自らの球団を対象とした野球賭博を行っていたことが発覚すると、その野球人としての歩みは暗転します。

すなわち、1988年に30日間の出場停止処分を受けると、翌年には球界からの永久追放処分が下されたのです。

当時、ローズ氏は「他球団に賭けたのではなく、自分のチームの勝利に賭けていたのだから問題はない」という趣旨の主張を行って処分が不当であると訴えました。

しかし、1919年のワールド・シリーズを巡るいわゆるブラックソックス事件で人々の信頼を失い、一時は存亡の危機に立たされた球界にとって、そのような主張を受け入れる余地はありませんでした。

当時のコミッショナーのバートレッド・ジアマッティは、処分が重すぎるとするローズ氏や愛好家たちの主張と、毅然とした対応を求める球団経営者などとの間に立たされて苦悩し、処分を下した8日後に心臓発作により急逝しています。

いわば自らの命と引き換えに球界からの永久追放という最も重い処分を下したのがジアマッティであり、いかなる野球賭博も許されないという方針により、ローズ氏は資格取得後に選出されることは当然と考えられていた野球殿堂への掲額の資格を失います。

その後、コミッショナーが交代するたびに永久追放処分の解除を求める書簡を送り続けたローズ氏ではあったものの、「彼が選ばれるなら自分は野球殿堂から出る」という選出者の強い反発などもあり、ついに処分の解除と名誉の回復は行われませんでした。

もとより、たとえ自らの球団の勝利に賭けていたとしても明確に禁止されている事項に抵触したことは間違いなく、球界の最善の利益を考慮してコミッショナーが追放処分を下し、最後まで解除しなかったことは、野球の価値を維持するためにも不可欠な措置でした。

厳しい競争に勝ち抜かなければ大リーグ選手の座を手に出来ないという現実からすれば、ローズ選手の自負心の強さは最後の勝利のために重要な要素であると言えるでしょう。

それでも、自分ほどの記録を残した選手だから例外的な措置が取られてしかるべきであるという考えは自己中心的であるという批判を免れるものではなく、その後も球界内で追放解除の動きが多数派を形成できない一因となったことは否めません。

そして、監督としても412勝373敗、3年連続地区2位と安定した実績を残していただけに、野球賭博にかかわらなければ指導者としても大成していたことが推察されるだけに、その才能が球界の禁忌に触れたことが悔やまれます。

新人時代に全力で疾走する様子から、ニューヨーク・ヤンキースのホワイティ・フォードに「チャーリー、ハッスル」(がんばれ、チャーリー)と呼ばれたことで「チャーリー・ハッスル」の綽名で親しまれたローズ氏は、球界との関係が途絶えた後に出身地であるシンシナティで飲食店を経営しています。

店舗では従業員が背中にローズ氏の背番号である「14」と記された制服を着用しています。

追放後も終始強気な発言を行ってきたローズ氏ではあったものの、最後まで野球人であることを自らのよりどころとし、悔悟の念を抱いていたであろうことが推察されます。

球界に一時代を画した大選手のご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Critical Biography: Mr Pete Rose: The Fallen Idol of the MLB (Yusuke Suzumura)

Mr Pete Rose, a former player and manager of the MLB, had passed away at the age of 83 on 30th September 2024. Mr Rose has the record of the total hits 4256, but was purged from the Major League Baseball in 1989 by the baseball gambling.

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