【評伝】扇千景氏ーー「タレント議員」の可能性を広げた政治的感覚
去る3月9日(木)、元参議院議長の扇千景氏が逝去しました。享年89歳でした。
高等学校卒業時に地元神戸大学の工学部で建築を学びたいと考えていたものの、「女子大でなければ授業料は払わない」という父の一言を受け、「あそこだったら女の子だけ」という友人の助言を受けて受験した宝塚音楽学校に合格し、舞台人としての第一歩を踏み出した扇氏が、花組から映画専科を経て二代目中村扇雀と結婚して「梨園の妻」となったこと、さらにテレビドラマ『君は今何をみつめている』で復帰すると人気女優として映画、テレビドラマ、ワイドショーなどに多数出演したこと、さらに1977年の参議院議員選挙で自民党候補として当選した「タレント議員」の1人となったことは、広く知られるところです。
その後は、1回の落選を経験し、1994年に自民党を離党して新生党に参加してからは小沢一郎氏と行動をともにした扇氏は、自由党、保守党に属し、2000年の第二次森改造内閣で建設大臣兼国土庁長官として初入閣すると、運輸相や国交相などを歴任します。
「票集めのためのタレント議員」であった扇氏がついには参議院議長として三権の長の一角を占めたのは、1993年の自民党の分裂に始まる政界再編の時期にあって様々な政党を経験して自民党に復帰するといった時流とともに、2001年の省庁再編後の初代国交相を務めた際に、第一次橋本内閣時代の建設相であった中尾栄一氏の汚職事件によって低迷していた新しい省の印象の改善に寄与するといった、実際の政治的な手腕と感覚の鋭さに求められます。
政治的な感覚という点では、新進党の解党後は小政党を経る中で二階俊博氏の知遇を得たことが見逃せません。
すなわち、二階氏とともに小沢氏の率いる自由党を離党して保守党を結成すると、知名度の高さと発言の明快さが評価されて党首に就任し、同党の解党によって保守新党を結成したことで自民党への復帰の機会が巡って来たのでした。
こうした激動の履歴は、例えば1980年5月30日に参議院議員選挙が公示された際、大平正芳首相と新宿での街頭演説に臨み、大平氏の心臓発作の場面に立ち会うといった一点にもよく示されています。
歌舞伎界に留まらず芸能界屈指の人気者であった夫との様々な出来事や、中学校1年生の英語の授業の際に男子生徒が"I am Mr...."と自己紹介をするのにつられて"I am Mr. Hiroko Kimura"と言ってしまい「ミスター」という綽名が付いたことなど、扇氏の一生は「日本の憲政史上初の上院の女性議長」といった歴史的な役割に限らない、様々な逸話に彩られたものでした。
自らの手腕と才覚によって「タレント議員」の可能性を広げた扇千景氏のご冥福を、改めてお祈りします。
<Executive Summary>
Critibal Biography of Former President of the House of Councillors Chikage Oogi (Yusuke Suzumura)
Former President of the House of Councillors Chikage Oogi had passed away at the age of 89 on 9th March 2023. On this occasions, we examine the life of Ms. Oogi.
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