「米国プロ野球史上初の女性監督」が注目される本当の理由

去る1月24日(月)、日刊ゲンダイの2022年1月25日号27面に、連載「メジャーリーグ通信」の第108回「「米国プロ野球史上初の女性監督」が注目される本当の理由」が公開されました[1]。

今回は、ヤンキース傘下の短期A級タンパ・ターポンズの監督にレイチェル・バルコベック氏が就任したことの意味を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


「米国プロ野球史上初の女性監督」が注目される本当の理由
鈴村裕輔

右翼から本塁への送球が逸れ、一塁手の頭上を越える暴投となったものの、遊撃手のデレク・ジーターが所定の守備位置を超えて中継し、駆け抜けざまに本塁に投げて走者をアウトにする。

ヤンキースとアスレティックスが対戦した2001年のアメリカン・リーグ地区シリーズ第3戦でジーター(ヤンキース)がみせた守備は、現在も「プレーオフ史上最も頭脳的なプレーの1つ」として高く評価される場面だ。

一方で、ジーター自身は「スプリング・トレーニングでも行うこと」と謙遜する。また、1992年にヤンキース傘下のA級グリーンズボロ・ホーネッツの監督としてジーターを指導したトレイ・ヒルマンも、ジーターの動きこそヤンキースが大リーグからマイナー・リーグまで一貫して取り組んでいる「ヤンキースに求められるプレー」を体現したものと指摘し、ジーター個人の資質とともに、体系的な指導の成果である点を強調している。

ヒルマンは、1990年から12シーズンにわたり、短期A級からAAA級までヤンキース傘下の7つのマイナー球団を指揮した実績を持つ。「FA選手の獲得から選手の育成に方針を転換した1990年代からヤンキースは強くなった」という体験に基づく指摘も考え合わせると、ヤンキースにおけるマイナー球団の持つ意味の大きさが分かるだろう。

それでは、ヤンキース傘下の短期A級タンパ・ターポンズの監督にレイチェル・バルコベッツが就任したことはどのように考えられるだろうか。

2020年にルーキー・リーグのGCLヤンキースの打撃コーチとなったバルコヴェツは「米国プロ野球史上初の女性コーチ」である。そして、今回の起用で「初の女性監督」となった。

米国社会の基本的な価値観の一つは多様性の尊重だ。これに対し、女性の球団経営や指導への参画の遅れから「閉鎖的」と球界は批判を受けて来た。

従って、ヤンキースによる人事という話題性の高さを考えれば、バルコヴェツの監督就任は球界による米国社会への実績作りの域を出ないとも言える。

だが、ヒルマンが指摘するヤンキースにおけるマイナー球団の位置付けを踏まえれば、単なる形式的な人事ではないことは明らかである。

むしろ、ヤンキースはバルコベッツの指導者としての能力を評価し、球団の将来を支える人材の育成の一翼を担わせる、重要な人事を行ったことになる。

もちろん、事前の評価と実際の成果とが一致せず、指導者としての経歴を終える者もいる。

しかし、バルコベッツが自らの能力を試す機会を得たことも間違いない。

それだけに、バルコベッツがターポンズでどのような実績を残すか、そしてどのような道を進むかに注目が集まる。


[1]鈴村裕輔, 「米国プロ野球史上初の女性監督」が注目される本当の理由. 日刊ゲンダイ, 2022年1月25日号27面.

<Executive Summary>
Rachel Balkovec, "The First Female Manager in the US Professional Baseball" Has an Important Meaning and Role (Yusuke Suzumura)

My article titled "Rachel Balkovec, "The First Female Manager in the US Professional Baseball" Has an Important Meaning and Role" was run at The Nikkan Gendai on 24th January 2022. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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