参議院が「ガーシー問題」に臨む態度はいかにあるべきか

3月8日(水)、NHK党のガーシー参議院議員が参議院本会議を欠席しました[1]。

昨年7月の参院選に当選したガーシー氏は同年8月の臨時国会以降、一度も登院しておらず、国会を欠席し続けた懲罰として本会議場での陳謝を求められていたものの従わなかったため、与野党は新たな懲罰として最も重い除名の検討に入りました[1]。

日本国憲法の下では、1950年の小川友三参議院議員と1951年の川上貫一衆議院議員が除名となっています。そのため、ガーシー氏が除名されれば現行憲法下では衆参を通して3例目となります。

小川友三は参院本会議で予算案に反対する討論を行ったにもかかわらず採決の際に賛成票を投じるなど、不誠実な態度が問題視され、1950年4月7日に懲罰事犯として除名されました[2]。

また、共産党の川上貫一はGHQの占領政策や朝鮮戦争、さらに当時の吉田茂内閣によるいわゆる単独講和を批判するとともに、革命を礼賛するかのような発言があったことが議員の品位を損なったとして批判され、最初は議場での陳謝の処分が下ったものの川上が拒否したため、最終的に除名に至っています[3]。

例えば政権に反対する議員や党内の権力闘争によって敵対派を一掃する方法として除名が懲罰という本来の目的を逸脱して用いられないようにするとともに、国民の投票によって選ばれた国会議員の身分を保証するという観点からも、議員の除名の事例が少ないことはこれまで関係者が抑制的に懲罰を運用してきたことを示します。

そのため、「戒告」「議場での陳謝」「登院停止」「除名」と4種類の懲罰の中で最も重い除名をガーシー氏に適用するためには、相応の理由が必要であるのは論を俟ちません。

このように考えれば、当選以来一度も登院しないだけでなく、尾辻秀久参議院議長が招状により登院を促しても応じず、懲罰委員会による陳謝処分も拒否したことは、院の尊厳を損なうという点で、より重い処分に値することが分かります。

しかも、現時点で一度も登院していないガーシー氏だけに、陳謝の次に思い処分である登院停止を行うことは実質的に意味を持たず、最も重い処罰を下すという判断も妥当と言えるでしょう。

ただ、もしガーシー氏を除名すれば、同氏がその処分を話題としてSNSや他の媒体などに発表し、「自分は参議院の強圧的な対応の被害者だ」といった、事実と異なる主張を行い、さらに人々の耳目を集めるとともに院の尊厳を一層傷つけることは容易に推察されるところです。

ここから、参議院は、処罰しなければ正当な理由なしに登院という国会議員としての最低限の務めを果たさない議員の行動を矯正することが出来ず、処罰すればガーシー氏に宣伝の機会を与えるという、困難な状況に置かれていることが分かります。

その意味で、関係者には、ありうべき今後の展開も十分に検討しつつ、院として毅然とした態度で事態の収拾に当たるとともに、その後の展開にも動ずることなく泰然とした姿勢を示し続けることが重要なのです。

[1]72年ぶり 議員「除名」検討. 日本経済新聞, 2023年3月9日朝刊4面.
[2]官報. 第6974号, 1950年4月12日, 123面.
[3]官報. 号外, 1951年3月30日, 517-521面.

<Executive Summary>
What Is the Important Attitude for the House of Councillors to Deal the "GaaSyy Issue"? (Yusuke Suzumura)

Mr. Yoshikazu Higashitani as known as GaaSyy, a member of the House of Councillors, was absent at the Plenary Session of House of Councilors in which he should appologise his absese after the election. On this occasion, we examine the important attitude for the House of Councillors to deal this problem.

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