「国際政治とクラシック音楽の関係」を解き明かした『クラシックの迷宮』の特集「混迷の時代の“雪解けクラシック”」
昨日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』は「混迷の時代の“雪解けクラシック”」と題し、フルシチョフ政権下で進んだ米ソ関係の改善が東西両陣営の「雪解け」だけでなく交響管弦楽の分野にも影響を与えたことが、演奏者や演奏会の交流を通して紹介されました。
取り上げられたのは、マルグリット・ロンが1955年にモスクワにおいてキリル・コンドラシンの指揮によるモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団と行ったラヴェルのピアノ協奏曲の演奏からウラディミール・ホロヴィッツが1986年にレニングラードで行ったショパンのポロネーズ第6番の実況録音までの約30年にわたる音源でした。
特に「雪解け」の象徴となったのが、宗教全般が統制の対象とされていたソ連において、「宗教音楽」として長らく演奏を禁止されていたバッハをアイザック・スターンがレニングラードで演奏したことで、番組の中で紹介された無伴奏バイオリン・パルティータ第2番の「シャコンヌ」は歴史的な演奏といっても差し支えのないものでした。
この他にも1950年代末から1960年代半ばの公演の実況録音を中心とし、1962年に米国に亡命中のストラヴィンスキーがモスクワでソヴィエト国立交響楽団を指揮した『オード』から第2曲「エグログ」やカラヤンとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が1969年にモスクワ音楽院で行ったリヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』から「英雄の隠遁と完成」が取り上げられ、音楽を通した東西両陣営の文化の交流が着実に進んでいた様子が改めて示されました。
こうした背景を考えれば、今回は取り上げられなかったもののNHK交響楽団が1960年に日本の演奏団体として初めて海外公演を行った際にモスクワを訪問した意味と意義の大きさが間接的ながら浮き彫りになります。
もちろん、「雪解け」がただちに冷戦の終結へと至らなかったのは、番組でも司会の片山杜秀先生が指摘したように、ベルリンの壁が建設されたのが1961年であったことからも分かります。
それでも、ひとたび始まった音楽上の交流が途絶することはありませんでしたし、紆余曲折を経て冷戦の終結とソ連の崩壊を迎えたことは、われわれのよく知るところです。
その意味で、今回の放送は、音楽を通して世界の歴史が大きく転換した様子を了解するという、気宇壮大な試みであったことが分かります。
こうした着眼点は片山杜秀先生ならではであり、『クラシックの迷宮』だからこそ実現できる特集です。
それとともに、ソ連が東側諸国の盟主であるだけでなく、文化的にも「大国」であったことを改めて伝える、意義深い放送でした。
<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Shows the Relationships between International Politics and Classical Music (Yusuke Suzumura)
A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured detent and its influence on classical music on 10th February 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand relationships between international politics and classical music.
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