米国の「債務上限問題」の問題は何か

去る5月27日(土)、米連邦政府の債務上限問題を巡り、バイデン大統領と野党共和党のマッカーシー下院議長が基本合意に達しました[1]。

バイデン大統領もマッカーシー議長も、ともに2024年の大統領選挙に向けて合意の成果を強調しています。

しかし、今年1月に政府の債務が上限額に達したものの与野党ともに具体的な対話を行わず、5月1日になってイエレン財務長官が6月1日にも債務の償還が出来ない恐れがあることを指摘してからにわかに争点化したことは、世界最大の経済大国である米国があたかも党利党略を優先して大局的な観点から政策を遂行できないことを示すかのようです。

実際、米国統合参謀本部のミリー議長が債務不履行となった場合は米軍の即応力や士気、戦力に大きくかかわると指摘し、経済問題と思われがちな債務上限問題が国家の安全保障上の重大事でもあることに言及したこと[2]は、問題の持つ影響力の大きさを描き出します。

あるいは、5月19日(金)から21日(日)まで広島県広島市で開催された主要7カ国首脳会議においてバイデン大統領が問題への対応のために首脳討議や夕食会の一部を欠席したり早退したりしたことは首脳間の連携の強化だけでなく、その他の参加国との関係の緊密化を妨げかねないものでした。

もちろん、債務上限問題はバイデン政権で初めて起きた出来事ではなく、21世紀以降の各政権が直面してきた課題です。

従って、債務上限問題を巡る党利党略あるいは個利個略的な対応そのものが問題であるだけでなく、現在に至るまで連邦議会において債務上限問題を政治問題化させないための仕組みを導入しようとする主張はあっても、実際に制度が改正されるには至っていないという点も大きな問題です。

今回の合意も時限的なものでしかありません。

それだけに、今後も米国の中央政界の恒例行事となるであろう債務上限問題について、われわれは米国の関係者が事態を真摯に受け止め、米国が世界最大の経済大国としての責務を果たしうる環境を整えること願うのです。

[1]米債務、またも土壇場合意. 日本経済新聞, 2023年5月29日朝刊3面.
[2]米軍制服トップ債務問題に懸念. 日本経済新聞, 2023年5月26日夕刊3面.

<Executive Summary>
What Is the Meaning of the U.S. Debt Ceiling Crisis? (Yusuke Suzumura)

US President Joe Biden and Speaker Kevin McCarthy agreed to solve the U. S. Debt Ceiling Crisis on 27th May 2023. On this occasion, we examine the meaning of this problem based on its influence on international society and the dependability of the USA itself.

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